
塾長・最高顧問 元谷 外志雄
冒頭のアパグループ代表元谷外志雄塾長によるご挨拶では、「熊本の震災では当社のホテルも被災したが、『どのようなことがあってもホテルを閉じるな』と指示し、熊本で唯一一日も休まず予約を受けている。電気が点かなかったり水が出なかったりエレベーターが使えなかったりしていたが、事情を説明して納得していただけるお客様には一泊3、000円程度で客室を提供し、大変感激されている。東日本大震災の際に当社の仙台のホテルでは、1階と2階をすべて開放して、予約の有無に関係なく、来られた方々に毛布や飲料を提供するとともに、不完全な状態でも事情を説明してお客様に安く客室を提供した。国境なき医師団やボランティアからは大変感謝された。こうした経験があったから今回も対応できた。東日本大震災では、責任を回避するため支障のない高速道路まで閉鎖したり、電車を止めたりするだけでなく、駅のシャッターを閉めて人を締め出したことが問題になった。今回も他のホテルは宿泊しているお客様を外に出したり、予約しているお客様の宿泊を断ったりしている。ホテルのように壁の多い建物は地震に強く、ホテルが倒壊することはまずない。部屋の中の物が倒れたり飛んで来るのを気を付ければ、建物の中にいる方が安全だ。火災についても焼け死ぬことはほとんどなく、多くは有毒ガスを含んだ煙を吸って死んでから焼ける。だから私はすべての客室に『煙防ぐ~ん』というビニール袋を二つずつ設置し、火災が起こっても、それを被ることで非常階段まで脱出できるようにしている。」と、熊本でのアパホテルの対応や防災対策について語られました。

参議院議員 山本一太様
参議院議員の山本一太様は、「熊本地震に対して安倍政権は対策に総力を挙げている。いち早く自衛隊を増強し、米軍の輸送支援も要請したことで、救援物資が被災地に届くようになった。できることは何でもやり、先手先手で取り組んでいる。3月11日が近付く度に、私は自民党が国民の皆様の信頼を失って民主党に政権を譲ったことを後悔してもしきれず、大きな危機が起こったときに、自民党が国民の皆様の信頼を失って政権の座を譲っているようなことはあってはならないと強く心に誓っている。民主党政権では危機に際して全くガバナンスが効かなかった。どうしても許せないことは、津波や原発事故に対して、日本政府としてどう対応したのか全く記録に残っていないことである。日本の役人は細かいことまで全て記録しているものであるが、責任回避のために全く残していないのである。何が上手くいって何が上手くいかなかったのかという経験を国際社会と共有することは、日本政府の義務である。今の政府に不可欠なのが危機管理能力である。地震は場所を選ばない。地球温暖化などもあり、明らかに自然災害のレベルが一段上がっている。私は防災担当大臣を設けるべきだと主張している。防災担当大臣が全国を回って各自治体と連携してきめの細かい対応をしていく必要がある。危機には経済危機もある。日本だけが三本の矢で頑張っても対応できない。平和安全法制が成立したが、日本を取り巻く安全保障環境は厳しくなっている。日本国憲法について、憲法学者の7、8割が自衛隊は違憲であると言っていた1972年に、日本政府は個別的自衛権はあるという政府見解を出した。その際、集団的自衛権は国連憲章で認められているが行使しないという見解をとったが、その後40年で国際情勢は大きく変わった。最も政権に求めるべきは危機管理能力であり、自公政権にはその経験、知識、覚悟がある。」と、政権における危機管理能力の重要性について訴えられました。
参議院議員 荒井広幸様
参議院議員の荒井広幸様は、「自助、共助、公助とある中で、社会問題を解決していくためには自助や公助には限界があり、共助を大きくしていったら良いのではないかと考えている。共助の一環として、『社会的インパクト投資』という手法が注目されている。イギリスで実験的に行われて成功したが、受刑者がなかなか更正できないことに悩んでいた刑務所が民間から寄付に近い投資を受け、社会的企業が再犯防止プログラムを実施して成果が出た。投資家は『住みよい社会』という配当を受けるだけでなく、再犯率が下がったことで削減できる行政コストの一部が配当として還元される。時間や体力、知恵、金などそれぞれの人々が出せるものを集めて財政難を補いながら共助で問題を解決していくことを目指していく。」と、社会問題の解決の手法として、「社会的インパクト投資」を紹介されました。
衆議院議員 工藤彰三様
衆議院議員の工藤彰三様は、「私は衆議院の文部科学委員、国土交通委員、災害対策特別委員会理事に従事しているが、特に災害対策についてお話ししたい。地元は愛知4区であり、名古屋市の瑞穂区、熱田区、港区、南区の4つの区から成っている。この地域は昭和34年の伊勢湾台風で壊滅的な打撃を受けた。私が生まれたのは昭和39年であるが、幼少期にはまだ台風被害の爪跡が残っていた。こうした経験から、二度と津波による被害を受けないよう、この地域の減災強化を進めてきた。大地震が来ると言われているが、皆さんは実際に訓練をしているだろうか。ここで大切なのは近所付き合いだと思う。また、南海トラフ地震が起こると名古屋港が甚大な被害を受けるが、名古屋港がダメージを受ければ、日本経済全体にも大きな影響を及ぼすことになる。そのため、予算を取って名古屋港の整備を進めてきた。こうして災害対策を訴えてきた。皆さんも家族と一緒に災害対策について話し合ってほしい。」と、災害対策への取り組みを紹介され、それぞれ自分の問題として考えるよう呼びかけられました。
参議院議員・財務副大臣 岡田直樹様
参議院議員・財務副大臣の岡田直樹様は、「熊本の震災に対して財務副大臣の立場からは、お金の心配をしないで全力を挙げて対応を進めてほしいと言っている。財務省は締めるときは締めるが、非常時には人々の命を救い生活を一刻も早く立て直すことを優先している。国には約3、500億円の緊急時に使える予備費がある。食料や生活必需品のために既に23億円を拠出している。この金額を少ないと思われるかもしれないが、東日本大震災で300億円の予備費が拠出されたが、230億円は不要となって国庫に戻されている。予備費を適切に使うことは難しい。しかし、必要とあらば今後も予備費を柔軟に使っていく。」と、財務省としての震災への対応を紹介されました。さらに、「被災地の姿を見ると自衛隊の方々の献身的な活動に感動を覚える。もちろん、警察や消防、国土交通省も不眠不休で働いており、こうした活動に全力でバックアップしていきたい。アベノミクスが功を奏し、大企業等からの法人税で予想を上回る税収があったことで、平成28年度の予算は96兆7、218億円と過去最大規模となった。このうち国債費が約四分の一、社会保障費が約三分の一を占め、国が主体的にやっている仕事は主に公共事業、文教科学振興、防衛の3つしかない。このうち防衛費は初めて5兆円を超えたが、平和安全法制ができたから増えたのではなく、中期防衛力整備計画に基づいて着実に整備している。自衛隊は災害時には感謝され、頼りにされるが、報われることが少ない。大変な仕事なのに給料は多くなく、せめて勲章くらいは早くあげてほしいと思う。自衛隊はこれまで税金泥棒と罵倒されてきて、叙勲でもレベルの低い格付けであった。緊急叙勲というものもあるが、殉職者だけではなく、災害派遣で功績を上げれば生前叙勲も認めるべきだろう。」と、自衛隊の地位向上の必要性を指摘されました。塾生から「非正規が4割と言われている中で、財務省としてはどのように考えているか。」と質問が出され、岡田様は、「財政再建と言っても、経済再生なくして財政再建はない。会社に稼いでもらい法人税率を低くすることで賃上げや非正規を正規にしたり、設備投資をやってほしいと言っている。内部留保は最も無意味だと思う。経営者がデフレマインドから脱却してどんどん投資をしてほしい。」と答えられました。また、塾長からは、「熊本の震災では造っては壊す仮設住宅ではなく、全国の空き家で安く提供していただける方から一定期間政府が借り上げ、そこに被災者の希望に応じて住めるようにした方がよい。お金を上手く使うことが重要である。」と提言が出されました。
慶應義塾大学経済学部教授 塩澤修平様
慶應義塾大学経済学部教授の塩澤修平様は、「経済は国の基盤である。経済活動の規模を決めるのは有効需要であり、売れるものしか作られない。この有効需要の原理は近代国家でのみ当てはまる。近代以前は経済の規模は生産能力で決まっていた。需要が生産能力より小さいときに失業が発生する。その差をデフレギャップと言うが、約20兆円と推計されている。この差を埋めるためには有効需要を増やさなければならない。従来型公共支出は、需要は増加させるが、作られたものがほとんど役に立たず、財政赤字が増加するだけであった。国家が主導しなければならない分野は、国防や安全保障、基礎技術などである。富を創造するのは、消費者が潜在的に望んでいるものを顕在化して実際に供給する企業家である。近代以前はゼロ・サム社会であったが、現在はゼロ・サムではなく新たに富が創り出される。したがって、富を生み出す人には税制面で優遇し、少なくとも足を引っ張らない制度が必要である。充実した高齢化社会のために未病への対処が必要である。最先端医療やロボット技術などの未病産業の育成や、病気を防ぐ努力に対してもインセンティブを与えるべきである。人工知能の発達により若い人の仕事がなくなると言われるが、若者の数が減っていくのであればむしろ良いことではないか。また移民の議論をする前に、引き篭もりやニート、非正規社員の活用がまず先だろう。農業の潜在的可能性は高い。日本の農業生産は金額ベースでは世界第五位である。日本の農業は弱者のようなことを言っているが、集約化して競争力を付けるべきである。資金調達手段としてはクラウドファンディングも活用できる。強い経済が国際社会における日本の立場を強め、国民の誇りと気概を高め、安全保障を強化し、独立自尊の精神に繋がる。」と、経済の基本原理を解説され、日本経済活性化のための提言をされました。塾生より、中央銀行の国有化について見解を問われると、塩澤様は、「中央銀行の独立性が強調されたのはインフレを恐れていたからであり、その一方で政府と中央銀行は密接な関係にある。金融政策はあくまで時間稼ぎであり、その間に政府が富を生み出す政策を実施し、人々にお金が回るようにするべきである。」と答えられました。
テスラ製薬株式会社取締役社長・医学博士 クリス・アーンショー様
テスラ製薬株式会社取締役社長・医学博士のクリス・アーンショー様は、「私が初めて来日したのは40年前で、高校を卒業したばかりのときだった。当時は侍のイメージしかなく、近代化された大都会を見て、ヨーロッパ人は日本のことをよくわかっていないと痛感した。イギリスと同様、日本にも爵位があり、歴史を重んじていることから天皇制や伝統文化について学んだが、日本は爵位を廃止し、欧米文化を積極的に取り入れてきた。1700年代に欧米は交易を拡大したが、当時は世界地図がなく、経験から海図が書かれていた。そこでエリザベス1世が世界に測量士を派遣して地図の作成を命じた。きっかけは1707年に英国の軍艦が座礁し、約5、000人が犠牲になったことである。当時地球は4分に1度の速さで自転していることはわかっていたが、時計は海上では使えず経度がわからなかった。私の先祖のトーマス・アーンショーは海洋クロノメーターを開発し、経度が正確にわかるようになった。1805年にその技術が認められて表彰を受けている。かつてはイギリスでも時計産業は盛んであったが、日本の時計産業が凄かったため衰退した。国家は時代の流れの中で隆盛を誇る時期もあれば衰退する時期もある。日本もアメリカも島国で長い歴史を持っている。日本は現在低迷気味であるが、いずれまた世界経済の担い手となるだろう。」と、日本とイギリスの変化と継続性について語られました。
勝兵塾事務局長 諸橋茂一様
勝兵塾事務局長の諸橋茂一様は、「先程経度の話が出たが、緯度については1902年に木村栄がZ項を発見して世界に発表した。地球の自転軸が23・5度傾いていることは分かっていたが、木村栄は観測値と数学的な計算値との間にズレが出ていることから、当時動かないと思われていた自転軸がぶれていることに気付き、ここからZ項が発見された。この発見がなければ世界でスムーズに宇宙開発が進まなかっただろうと言われている。こうした功績は世界では高く評価されているが、日本では教えられていない。」「同じ1902年に日英同盟が調印されたが、その背景には、1900年に中国で北清事変(義和団事件)が起こり、これを8カ国の軍隊が出兵して鎮圧したが、日本軍が最前線で活躍しただけでなく、略奪も婦女暴行も行わなかったことにイギリスが感銘を受けたことがあった。」と、日本ではほとんど教えられない世界で評価される日本の偉人や日本軍のモラルの高さへの賞賛について紹介されました。
最後に塾長は、「長く続いた共産主義が74年を経てソ連の崩壊で終わった。中国は経済は市場経済であり、共産主義を独裁の道具として使っているだけである。共産主義との比較で民主主義は良い制度であったが、共産主義が消えたことで世界の大きな軸足が移ってきたことが今の大統領選挙にも影響を与えている。世界の警察官の役割を放棄し、核廃絶を訴えたオバマは現職大統領のレガシー(遺産)として広島を訪れるだろうと私が予想したとおり、オバマが広島を訪れることになった。大きな意味で世の中は変わり目にあるが、その背景には技術革新がある。IT革命によって今や一強全弱の時代に入った。アメリカは日本を占領統治するにあたり、憲法とセットで日米安保を結んだが、ルトワック氏が言ったように、アメリカは、日本が良い同盟国であって欲しいと望んでいても日本が真の独立国家となることを望んでいない、というのがアメリカの本音だろう。こうしたことも変わろうとしている。トランプの発言はアメリカの伝統的な考え方ではなく、彼が3度目の大統領選に臨むにあたり予備選挙でまともなことを言っても共和党候補になれないことから、貧しい人やノンエリートといった大衆を味方に付けるためにどうすればよいか考えた結果だろう。このままいけばトランプが大統領になる可能性が高い。希望的観測を含めて言えば、トランプが大統領になれば、日本に独立のチャンスを与えるのではないだろうか。日本は一定の役割を担いながら東アジアの平和と安定と繁栄のために力を発揮していかなければならない。安倍政権は非常に情報分析が早い。熊本での震災によって衆参同日選挙の可能性は低くなったが、安倍政権の支持率は高く、同日選挙がなくなったわけではない。消費税引き上げの延期に向けた動きがあるが、これも断行せざるを得ないのではないだろうか。世の中の動きが流動的であり、注視しながらこの先どうなるのか先読みしていく必要があり、事が起こってから対策するのでは遅い。『過去を検証し 現在を解析し 未来対策をせよ』が今月号の座右の銘である。熊本の地震では、それまで本震に勝る余震はないと思われていたため、二度目の地震を実際には震度7であったにもかかわらず震度6強と発表し、後から二度目の方が本震であったことがわかり、震度7に修正された。絶対ということはないという前提であらゆることに対処しておかなければならない。よく暗記した人が知識人と呼ばれるが、戦後アメリカがコントロールしやすい東大法学部を中心とする偏差値エリートが官僚やメディア、法曹界を牛耳り、ステルス複合体となって阿吽の呼吸で連携しながら日本を支配している。しかし、本当のことを知れば皆保守になる。この勝兵塾でいろんな人の話を聞いて、本当はどうなのかを自分の頭で考えて掴んでほしい。」と、流動的な社会の変化に対して未来を予測して対処することの重要性を説かれるとともに、勝兵塾の意義を改めて強調されて会を締め括られました。