勝兵塾第115回月例会が1月21日にアパグループ東京本社で開催されました。
冒頭のアパグループ元谷外志雄代表による塾長挨拶では、「アパグループは今年50周年を迎える。『アップルタウン』は1990年に発刊して、今月号が第366号となった。『継続は力なり』であり、この勝兵塾も毎月東京、金沢、大阪の三カ所で私が参加して開催してきた。本日も素晴らしい講師の方々にお越し頂き、素晴らしい会になると期待している。」と述べました。
駐日コソボ共和国大使館臨時代理大使のエニス・ジェマイリ閣下は、「コソボは西バルカンの中心にある。人口は約200万人で、70%が35歳以下、アルバニア人が90%で、セルビア人が5%、ボスニア人が5%である。言語は主にアルバニア語とセルビア語で、英語も広く使われている。国土面積は岐阜県や秋田県と同じくらいである。2008年2月17日に独立した、ヨーロッパで最も若い国である。過去にはローマ帝国、ビザンチン帝国、オスマントルコの支配下にあり、人々の宗教観は支配者の変化とともに変わった。ユーゴスラビアの支配下では、コソボ住民はセルビア系住民による大規模な人種差別を受け、1974年にはアルバニア系住民がトルコへ強制移住を強いられた。その後コソボはユーゴスラビアの下で自治権を獲得したが、アルバニア系住民への迫害は続き、1998年までで25万人以上のアルバニア系コソボ住民が追放された。しかし、ラチャク村での大虐殺が転換点となり、1999年にNATOが介入した。当時は100万人以上が難民化したが、90年代、国連難民高等弁務官の緒方貞子さんはアルバニア系コソボ難民の声を世界に伝えてくれた。紛争直後、日本が家を建てて支援してくれたことへの感謝の気持ちを永遠に忘れない。2008年2月17日にコソボは独立を宣言し、現在では117の国連加盟国から国として承認されており、100以上の国際機関の一員となっている。独立後はインフラの整備を進め、EUへの正式な加盟を目指している。日本はコソボの独立を最も早く認めた国の一つであり、2010年7月16日には東京に大使館が設立された。日本は東アジアにおける重要な戦略パートナーである。日本にとってコソボは欧州へのゲートウェイであると同時に、次なる観光地、投資先である。日本とは様々な共通点があり、王座の女神像は日本の埴輪とよく似ている。また、コソボの柔道家マイリンダ・ケルメンディは2016年のリオオリンピックで金メダルを獲得している。日本の『武士道』とコソボの『kunai』にも共通点がある。コソボには美しい四季と美味しい料理がある。コソボでは投資に関する法整備が進んでおり、コソボ投資・事業サポートエージェンシー(KIESA)がサポートしてくれる。投資分野としては、農業や食品包装、鉱業、エネルギー、建築・インフラ、木材加工、IT、繊維・皮加工等がある。」と、コソボ共和国の歴史や産業、日本との関係を紹介されました。
元文部科学大臣・衆議院議員の馳浩様は、「私は日本アルバニア議員連盟の会長をしているが、選挙が終わったらアルバニアとコソボを訪れたいと思っている。とても観光資源に恵まれているので、是非皆さんもバルカン半島を訪れてほしい。」とコメントされました。
続いて、2020年12月8日に開催されたアパ日本再興大賞・「真の近現代史観」懸賞論文表彰式並びに受賞記念パーティーにおいて行われた河添恵子様による最優秀藤誠志賞受賞記念講演の模様を動画で視聴しました。
衆議院文部科学委員長・衆議院議員の左藤章様は、「我々の社会は情報社会で、今取り組んでいるのがSociety 5.0である。日本の通信技術は2000年には世界一だったが、その後どんどん遅れて、今は6、7番目くらいになってしまっている。Society 5.0では5Gが必須であるが、中国Huaweiの機器が強く、日本は遅れている。ITUの事務総長の席も2004年からは中国などに取られっぱなしになっている。私は防衛族の一人であるが、ミサイルを造ってもコントロールするのは通信であり、サイバー・アタックなどのセキュリティの問題も通信そのものがアタックされるため、通信技術が重要である。日本は通信技術で遅れたが、Society 5.0の実現に向けてしっかり取り組んでいかなければならない。その中のひとつがGIGAスクール構想である。Society 5.0では、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合して、必要なものやサービスを必要な人に必要な時に提供することで経済発展と社会的課題の解決を両立させていき、快適な生活を創っていくことを目指している。GIGAスクール構想では、子供たちにICT教育をしっかりやっていくために、小中学校では一人一台PCやタブレットなどの端末を渡していくための予算化をした。遠隔教育のハイブリッド化による新しい学び方の実現に取り組んでいる。さらに、端末を配るだけでなく大容量の通信ネットワークを整備していく。3年度補正予算では、小中学校だけでなく、低所得者の高校生にも端末整備を支援していく。そうすることで子供たちにITに興味を持ってもらうことも狙いの一つである。今デジタル庁を創ろうと頑張っているが、トップガンと呼ばれる高度人材が日本にはほとんどいない。民間の力を借りて立ち上げようとしている。子供達に端末を渡すと子供達の理解度を測ることができるメリットがあるが、それを指導する先生が本当に解っているかが問題になる。そのため、GIGA StuDX推進チームを作って先生方を支援していく。一人一台の端末を使うことで教師と子供がつながるだけでなく、子供同士がつながり、学校と家庭がつながり、職員同士がつながり、それぞれが学べるようになる。子供たちが端末を使って調べることで、自ら考えることができる。端末をうまく使えば素晴らしいことができる。これからICT教育をしっかりやることで、日本の教育水準を上げ、コロナや災害などで学校に行けないときにも遠隔授業をしっかりやっていく。ただ、タブレットやパソコンだけで教育ができる訳ではない。教育は対面でやることが重要であり、知識だけでなく、人間性や思いやりをしっかり育てるのが教育の本質で、端末はあくまで手段である。」と、GIGAスクール構想への取り組みとその目的について語られました。
同志社大学法学部特別客員教授の兼原伸克様は、「今のインテリジェンスや戦争は激変しており、毎年8月にNHKが大量に流す映像のようなイメージとは全然違う。今は三次元の戦争ではなく、これに宇宙が加わっている。宇宙衛星は丸見えで弱いが、偵察は当たり前で、測位、通信、時間同期などで活用されている。GPSがないと今は戦争ができない。これは序の口で、最近はさらにサイバーが入って来た。これまで戦争は、現場で兵隊がぶつかり、勝負がつかないと相手の事業インフラを攻撃し、それでも勝負がつかないと相手の首都を攻撃して、相手が屈服するまでやるものだったが、サイバー空間ではワンクリックで済む。例えば、戦闘する前に相手の発電所を無力化して戦えなくするといったことを、ロシアがクリミア半島でやった。サイバー空間は、物理的にはスマホやコンピューターが無線と光ファイバーでつながってできている。その中にサイバー空間があり、中で動いているのは光である。光は1秒間で地球を7周半する。そのため、サイバー空間には時間と距離がない。そこで戦うのはサイバー戦士であるが、10歳から教育すれば、18歳には一流のハッカーになる。これが今の世界であり、現代の戦闘は、大きなスクリーン一枚にジョイスティック一つで、まるでゲームセンターのようである。これを引っ張っているのは民間技術である。問題なのは、我々が敗戦国であるため、科学技術と安全保障が完全に切れていることである。このような国は世界には他にない。一番大切なのは国民の命であり、皆そこに最大の投資をする。アメリカの国家の科学技術予算は20兆円で、10兆円が国防省である。国防省の予算は80兆円と巨大だが、その8分の1が科学技術費である。日本の防衛予算は5兆円で小さい額ではないが、科学技術予算が4兆円あるうち、防衛省に回るのは1千億円に過ぎない。このように、日本の科学技術は、安全保障と完全に切れている。産業と学術界と防衛省がばらばらだと絶対に戦争に負ける。日本の世界最高水準の技術をどうして安全保障に使わないのか。産業界では安全保障に対する意識が上がってきたが、残念ながら防衛産業は儲からないため撤退する会社が出てきている。安全保障で産・官・学の連携をしてほしいというのが希望だが動きは遅い。世界最高だった通信技術が遅れてしまったという話があったが、これは自衛隊が弱くなっていっていることと同じである。戦前の日本はアメリカの十分の一の工業力だったが、世界最先端の技術を持っていた。これはお国を守るという意識があったからである。戦後は国を守る技術は悪い技術だという変な雰囲気ができてきて、未だにこの空気が強い。産業界は本当によく協力してくれているが、問題なのは学術界である。学術界にはまだ1950年代の平和主義の雰囲気が残っている。国立大学の理工系の大学院に自衛官は入れない。文系でも軍事研究は絶対にしないという誓約書を書かないと入れてくれない。今は軍事も民事もなく、民生技術が軍事技術を凌駕している。民生技術がないと国を守れないのに、学術界から防衛省は全て軍事技術だから絶対に付き合わないと言われている。防衛省はなけなしの予算から100億円を積んで軍事技術ではなく基礎研究をしたいと頼んだときに、学術会議は絶対に付き合わないという声明を出した。これは差別だと思う。国を守る技術の何が悪いのか、理解できない。産・官・学でお金を持ち寄れば巨額になるが、防衛省の研究予算は微々たるものなので防衛省からは革新的な技術は出てこない。だから他の役所や学術界の技術が必要なのである。民間の科学技術費が16兆円ある。政府でも4兆円ある。優秀な人達がたくさんいて、驚くような技術がたくさんある。第一に防衛、第二に防災、第三に防疫、というように、国の役に立つところに集中投資してほしい。こういう擦り合わせの場所がなく、年間4兆年の科学技術予算の配分を政府が決めるが、その会議には防衛大臣や防災担当大臣、厚労大臣は呼ばれない。4兆円も使うのであれば公益に還元してほしい。4兆円は決して大きい額ではない。選択と集中で国の役に立つところに金を回すべきである。それができると産・官・学の協力ができる。日本国の力を合わせて取り組んでいかないと安全保障はうまくいかない。」と、安全保障における産・官・学の連携の必要性を訴えられました。
元文部科学大臣で衆議院議員の馳浩様は、「GIGAスクール構想で約4、600億円を一気に使ったのはコロナ対策でやむを得なかったが、今後更新するときの費用をどう捻出していくのか?」と質問され、左藤様は、「GIGAスクールで一人一台タブレットを渡す初期投資は簡単であるが、メンテナンスの予算をどうするかは頭が痛い。さらに、35人学級にしてきめ細かい教育をすることや、タブレットやPCを入れると机が小さすぎるため替えなければならないことなど、これらの予算を馳先生と一緒に獲得していくしかないと思っている。」と答えられました。
続けて馳様は、「我が国の科学技術の研究開発のマスタープランの素案を作っているのは日本学術会議であるが、極めておかしいと思っている。本来であれば、文科大臣の下に科学技術研究振興局があり、そこの審議会でやれば大臣の直轄で安全保障に関する研究を含め、国益にとって重要な研究開発ができるのであるが、文科省の官僚が日本学術会議に原案の作成を丸投げしている。これは許せないので何とかしたいと思っているが、ご見解を頂きたい。」と質問され、兼原様は「日本学術会議の問題は根が深く、問題は安全保障関連だけではない。学術会議に対しておかしいと言った人はこれまで吉田総理、中曽根総理、菅総理の3人しかいない。元々憲法第9条第2項は日本を非武装化するためのものであったが、それと同じく、日本学術会議は占領下で作られた組織で、その時の精神は日本を非武装化することであった。吉田総理は民営化した方が良いと言ったが、当時は今では考えられないくらい左が強かったため失敗した。中曽根総理もおかしいと言って、選挙から任命制に変えたが、原則として推薦された者を追認することとした。それを菅政権に代わったときに、総理に全く裁量権がないのはおかしいということになった。しかし、75年間で安保環境は激変して、国民も何とかしようという意識になってきた。それなのに日本学術会議は変わっていない。これでは産・官・学の連携ができないので、馳先生と全く同じ意見である。」と答えられました。
在日本ルーマニア商工会議所会頭の酒生文弥様は、「サイバー戦争でいかに勝つか? さらには勝つだけでなくサイバー世界をユートピアにできる可能性をどう考えるか?」と質問され、兼原様は、「サイバー戦争に勝つにはサイバー能力を上げるしかない。今は紙を使っているのではハッキングしようがないが、今からデジタル化を進めていくので、これから危なくなる。ここを守り切らなければならない。サイバー能力はアメリカ、ロシア、中国、北朝鮮が強く、日本は弱い。今回の防衛大綱で初めてちゃんとやろうということになった。また、AIはスパコンを使うのだが、1台で原発1基分の電力を消費する。人間はアンパン1個で24時間考えることができる。スパコンはものすごいエネルギーを消費して膨大な量のデータの中から答えを見つけ出してくるが、アンパン1個ではできない。問題なのは今あるものの中で一番使えるものを取り出してくるだけで、膨大な量を学ばせれば綺麗な日本語を使うこともできるようになるが、教えたことしか話せない。人間は生き延びようとするので考える。人間には考えるときに動機があるが、AIには動機がない。ただ、AIはだんだん人間に近づいていくだろう。」と回答されました。
最後に塾長は、「今回も素晴らしい会になった。」と感想を述べて会を締め括りました。