勝兵塾第112回月例会が10月15日(木)にアパグループ東京本社で開催されました。冒頭のアパグループ元谷外志雄代表による塾長挨拶では、「菅政権が誕生して明日で1カ月となる。スピード重視を掲げ、硫黄島の遺骨収集特命チームの立ち上げを打ち出し、家計を圧迫している携帯料金を平均5、000円程度引き下げさせるなど、菅総理は実務派で叩き上げと言われているが、良くやっていると高く評価している。勝兵塾は10年目となり、3会場でこれまで延べ3万人以上が出席して、日本の保守化に貢献してきた。私が主催しているということで、多くの方々に集まって頂いていると思う。事業家はこうした政治的な活動をなかなかやらない中で、私は国益のためにリスクを取ってやってきた。その結果、日を追うごとに参加者が増え、素晴らしい講師の方々にお越し頂いている。」と、スピード感のある菅政権を高く評価するとともに、勝兵塾の果たしてきた役割にも触れました。
東ティモール民主共和国大使館特命全権大使のイリディオ・シメネス・ダ・コスタ様は、「東ティモールはアジアで最貧国の一つであり、世界で最小の国の一つである。また、独立して18年しか経っていない。東南アジアに位置し、オーストラリアの北東、インドネシア列島の東に位置している。歴史的にはポルトガル、インドネシアの植民地であり、第二次世界大戦では戦場にもなった。非常に悲しい歴史ではあったが、オーストラリア、日本、ポルトガルは皆友好国であり、どの国とも軍事同盟を結ばない非同盟中立を維持している。1999年8月30日に国連によって行われた国民投票の結果、東ティモールは自らの進む道を決めた。その当時、灰塵と瓦礫の山からインフラを造っていかなければならなかったが、多くの国々が国連を通じて支援してくれた。日本は現在に至るまで最も貢献してくれた国の一つであり、東ティモールの大きな助けとなってきた。日本政府は東京で開発パートナー会議を開催して、東ティモールの再建について議論をしてくれた。2002年に東ティモール大使館ができてからは、日本政府は積極的に両国間の外交関係を推進し、国家建設のためにサポートしてくれ、特に学校や高速道路などのインフラの建設で大きな役割を果たしてくれた。日本はアジア諸国にとって大きな模範である。2005年に日本と東ティモールとの間で技術協定が締結されて、両国間の協力関係の法的枠組が整った。それ以来、両国間で政治的対話が行われ、様々な部門でプロジェクトが行われている。東ティモールには石油とガスがあり、農業、観光が盛んである。石油やガスのためのインフラ整備を急いでいる。観光業界は最も可能性が高い産業で、海や山は美しく、歴史的な史跡がたくさんあり、ユニークな伝統、文化もある。東ティモール国民は日本がこれまでしてくれた支援に感謝している。今後も支えて頂きたい。また、東ティモールに対する投資も大歓迎である。東ティモールに対する投資はアジアの発展に寄与し、両国の若い世代にとって最大の贈り物になると信じている。」と、東ティモールの取り組みと日本との関係について語られました。
外務省広報外交担当兼国際貿易・経済担当 特命全権大使の南博様は、「私は昨年まで2年間東ティモール大使を務めていた。東ティモールと日本との関係について1点付け加えると、1999年の国民投票の後、東ティモールは灰塵に帰したが、その後日本から警察及び自衛隊約2、000人が国連のPKOに参加して、国づくりに貢献した。このことは東ティモールから大変評価され、以来両国関係は良好に推移している。東ティモールは国が若いだけでなく、国民が若く、人口の半分以上が18歳以下であり、どのように産業を興していくかが大きな課題である。そういう観点から、今後も関与していきたい。現在は広報外交担当大使となり、日本のイメージを外国において良くすることが主たる役割である。先月ベルリンで慰安婦像が建てられたが、このようなことは日本政府のこれまでの立場と相容れないものである。皆様も非常に不快に思っていると思うが、外務省及び在外公館一体となって今後も正していきたい。」と、東ティモールと日本との関係等について補足されました。
コソボ共和国大使館臨時代理大使のエニス・ジェマイリ様は、「皆さんがこのような素晴らしい活動をしていることに感動した。東ティモールが日に日に発展していることを知って大変嬉しく思う。日本が東ティモールにとって最も友好関係にある国の一つであり、共に発展を図ろうとしている。日本と対照的に東ティモールは国民が若く、大きな可能性を秘めている。」とコメントをされました。
スタンフォード大学フーバー研究所教授の西鋭夫様は、「アメリカ大統領選挙は戦争のようなものである。汚いし、嘘をつくし、お金が飛び交うが、一番良くないのがアメリカと日本のマスコミである。3週間前に日本に帰ってきたが、ニュースを見ていると、トランプバッシングばかりで、頭が良いはずの解説者はどこを見てものを言っているのかと思う。トランプとバイデンは死闘を繰り広げているが、4年前と同じ現象が起こっている。世論調査でトランプに入れる人々がバイデンに入れると答えており、調査会社は4年前と同じ間違いをしている。最初のディベートでトランプは失敗したが、その2日後にコロナで入院したことで、皆最初のディベートに興味を失った。そして3日で退院したが、その間にバイデンの過激な支持者が『トランプは早く死ね』と言ったことで、極左のCNNでさえ、『さすがに言い過ぎだろう』となった。トランプはあちこちで講演しているが、ロックスターのような熱狂ぶりである。一方バイデンの講演は、人々がポツンポツンと離れているだけである。そのことを日本の解説者はなぜ言わないのか? どちらが勝つかはわからないが、どちらが勝っても第二次南北戦争が起こるような雰囲気である。アメリカでは皆銃を持っていて、銃規制を言うたびにより多くの銃を持とうとする。アメリカ人が銃を捨てないのは銃で独立を勝ち取ったからである。アメリカでは黒人グループが暴動を起こして略奪している。白人たちは黒人に対して、差別になるから、と言いたいことを我慢してきたが、とうとう我慢できなくなってきた。黒人の大人たちも、こんなことをしたらトランプが勝つと心配している。バイデンは戦略で失敗しており、黒人グループの暴動について一言も発言してこなかった。11月3日が選挙日である。まもなくアメリカに戻ってテレビで選挙を観戦する。今回はどちらが勝ってもどちらも結果を信じないだろう。12月に日本に帰国したら何が起こったかご報告する。」と、アメリカ大統領選挙の実情について語られました。
塾生から、「仮にバイデンが勝った場合、米中関係、日米関係はどうなるのか?」と質問があり、西様は、「バイデンが勝ったら日本は中国に売られるだろう。バイデンと中国は40年来のお金を基本とした深い関係があり、バイデンが勝てば、中国が日本に対してやりたい放題してもアメリカは知らん顔をして、日本は酷い目に遭うだろう。日本のマスコミもトランプをバッシングしてバイデンを応援しているが、全く前が見えていない。」と答えられました。
衆議院議員の鬼木誠様は、「今週13日の火曜日に、青山繁晴代表が率いる自民党議員の有志の会『日本の尊厳と国益を護る会』の執行部7名で官邸に赴き、皇室の皇位安定継承のための提言を菅総理に手渡した。皇室はこれまで2000年以上に亘って男系によって継承されてきたため、天皇陛下の父方を辿っていくと必ず神武天皇に繋がり、その先には神話に辿り着く。このような王朝は世界中で他には存在しない。この奇跡とも言える皇室の歴史を違えてはいけないこと、そして違えずに継承しているための方策を取りまとめた提言書を菅総理に届けた。女性天皇、女系天皇という議論がある中で、上皇陛下が譲位するためには新たな立法が必要であったが、退位特例法を成立させる条件として、その附帯決議に女性宮家という言葉を書き込むよう野党が求めたため、上皇陛下の譲位の思いを実現するために、苦渋の決断でそれを受け入れた。しかし、女性宮家ができ、婿入りした男性との間の子が天皇になると、父系の血筋が途絶えることになり、天皇が天皇でなくなってしまう。客観的情勢を見れば、秋篠宮皇嗣殿下の次の世代には悠仁親王殿下しか皇室の男子がいないため、将来悠仁親王殿下がご即位された後にもし男子が生まれなかったら、男系に拘ると皇室が途絶えてしまう。そこで、皇室を存続させるために女性宮家を、という議論になるが、女性宮家の場合、その子が天皇になると父系を辿っても神話に繋がらず、これでは解決にならない。天皇制という形骸化した制度が残るだけで、日本民族の神話に連なる天皇からかたちを変えてしまうことになる。そこで具体案として、旧宮家を皇族に復帰して頂くことを提言した。菅総理は、『国会答弁で官房長官時代に「男系による継承が古来絶えることなく続いてきた重みを踏まえる」と申し上げてきた。首相になった現在もいささかも変わらない。』とおっしゃった。世論調査では女性天皇や女系天皇に対して支持する声が圧倒的に強いが、その中でどうやって男系継承を続けていくのかというところに苦悩が見られる。ここから先は世論との戦いである。私たちは学校教育で皇室について正しい教育を受けていないため、知識がない中で皇室を存続させるためには女性天皇、女系天皇しかないと思い込んでいる。皆様には男系継承の意味を考え、一緒に世論を啓発して頂きたい。」と、男系による皇位継承の必要性を訴えられました。
国際歴史論戦研究所(iRICH)所長・大阪市立大学名誉教授・経済博士の山下英次様は、「7月16日の勝兵塾で高橋史朗教授が『子の連れ去り問題』について講演され、自民党などの日本の保守勢力を含めた日本社会への左翼勢力の浸透ぶりについて危機感を表明された。私はこうした危機感に共鳴し、日本のある主要な国家インテリジェンス機関に我々の問題意識を共有してもらおうと、9月に本部を訪問し幹部と面談し、日本社会における左翼勢力の浸透について調査をして官邸に上げてもらうべきと訴えた。その事例の一つとして文部科学省が挙げられる。数代前の事務次官の前川喜平氏は共産主義的な思想を持っており、さらに教科書問題では中学歴史教科書の主任調査官の中前吾郎氏には北朝鮮スパイ疑惑がある。それらを含めて文科省全体として共産主義者の伏魔殿である疑いがある。さらに、映画『主戦場』や子供の連れ去り問題、国連人権理事会及び国際人権条約に基づく諸々の国際委員会で日本社会の変容を画策する勢力、衆議院議員の杉田水脈氏に対する攻撃などの背景には、共通して関与している左翼勢力がある。彼らの共通した目標は日本の家族の崩壊であり、究極的には共産主義革命による国家転覆である。日本には5つの主要な国家情報機関があるが、その中の1つを訪れて調査を依頼した。」と、14の事例を挙げながら日本社会に浸透する左翼勢力について警鐘を鳴らされました。
一般社団法人「空の神兵」慰霊顕彰碑護持会代表理事の奥本康大様は、「本日はお遍路について話したい。四国遍路は空海が悟りを開くために四国を行脚したことが起源である。未だにこの文化が日本で伝わっていることはとても素晴らしいことだ。四国遍路が一般大衆に広まったのは、江戸時代の初期に、あるお坊さんが指南書を作ったことがきっかけで、この時期には神社仏閣にお参りする際には通行手形が発行された。私がお遍路に行った理由は、生まれが大阪で四国に近く、経験談を聞く機会が多かったからである。そこでいつかお遍路に行きたいと思っていた。私は60歳で現役を退いたが、そこでお遍路に出ようと一念発起して、半年間トレーニングを積んだ。さらに、お遍路をするために、写経をしてそれを携えて遍路に出た。88ケ所に加えて高野山と東寺の分を合わせて90枚を仕上げ、全ての寺で般若心経を唱えた。お遍路に行った動機は、まずは神仏への感謝がある。41歳で大腸がんのステージ3だったが、克服して現役生活を全うすることができた。さらに、出光興産で60歳まで勤めあげることができたこと、そして出光佐三への感謝もあった。私は3月7日にお遍路をスタートしたが、その日が出光佐三の御命日である。また、年老いた両親の介護をしていたので、両親が安らかに旅経つことを願った。お遍路では毎日30キロから40キロを歩き、約1、200キロの行程であったが、41日間で8キロ痩せた。その中で驚いたのは、ドイツから何度も来ている銀行家と出会ったことや金髪の外国人女性2人がお寺で般若心経を唱えていたことである。日本人は自分の国の歴史に自信を持たなければならない。お遍路で感じたことは日本の良さがすべてそこに残っているということである。出光佐三は終戦時に『日本人に帰れ、3千年の歴史を見直せ』と訓辞を垂れた。皆さんも是非お遍路に出て日本の良さを体験してほしい。」と、お遍路の体験とその思いを語られました。
元航空自衛隊空将で国家戦略研究所所長・東洋学園大学客員教授の織田邦男様は、「我が国の防衛の基本政策は4つあり、そのうち一番問題なのが専守防衛である。専守防衛は日本だけの政治用語であり、英語に訳そうとしてもうまく訳せない。国際共通用語としては『戦略的守勢』という言葉があるが、専守防衛は政治用語であるがゆえに極めて曖昧である。防衛白書に定義は書かれているが、『自衛のための必要最小限にとどめ』『保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限る』『憲法の精神に則った受動的な防衛戦略』とあり、皆勝手なことをイメージして話すので、議論が無茶苦茶になる。『戦略的守勢』という言葉があるのだから、それに沿って議論すれば、政治家もあんなに議論がばらばらにはならないだろう。政治的混乱が起きているため、極めて未熟な防衛論議になっている。『反撃をしたら専守防衛にもとる』『攻撃兵器を保有したら専守防衛に反する』『守るだけだろう』などと平気で言う議員がいる。戦略的守勢は相手より先に立たないということであり、必ずしも弾を先に撃ってはいけないということではない。クラウゼヴィッツは『防衛して反撃しないものは滅びる』と当然のことを言っているが、攻撃せずに国を守れるはずがない。先制攻撃は国際法違反だと言う人がいるが、あれは嘘である。予防攻撃は国際法違反であるが、戦略的守勢の下でも先制攻撃はできる。ある防衛大臣経験者が先日、『敵地攻撃能力について、相手の領土内で攻撃することは専守防衛に反する。』と言って驚いた。敵の領土内で相手のミサイルを叩かなければ防ぐ手段がなければ、これを叩くことができる。ミサイル防衛の条文では、我が国の領内に落ちてくるミサイルで国民に被害が出る場合には、これを叩いて良いことになっている。能力的にブーストフェーズではミサイルを叩くことができないので、ミッドフォースフェイズで叩き、それで撃ち逃したら最終的にはPAC3で撃ち落とすことになっている。しかしイスカンデルタイプに今のミサイル防衛は役に立たないため、戦略的守勢の下では、日本にミサイルが飛んでくることがわかれば発射前に叩けるのであるが、専守防衛などと言っているから敵地を叩けないという議論になる。専守防衛という政治用語で皆が全く違うことを考えているので、議論にならない。その結果、日本の国防は金縛り状態になっている。先に立たない、相手が立ってから立つ、というのは、非常に非人道的である。国民の被害を前提とした防衛政策で良いのか、国民一人一人が考えなければならない。軍事的には圧倒的に不利であり、守ることができない。1946年の憲法審査の際に吉田茂が国会で、『自衛戦争という名の下に戦争が起こっているから、自衛戦争は有害である。』と答弁し、これに対して共産党の野坂参三が『自衛戦争を認めないのはおかしい。』と反論した。朝鮮戦争、冷戦を経て、自衛権行使は合憲だという解釈となったが、それゆえ、相手より遅く立ち上がるときに、その立ち上げ方がものすごく厳格になった。『攻撃を受けた』と認定する要件は、『国または国に準じる者であるか?』『組織的、継続的、計画的か?』であり、この要件に合致しなければ自衛権行使ができないように自分自身で縛っている。敵が攻撃してきてこうしたことを国会で延々と議論をしているうちに、自衛隊は犠牲者を出すことになる。国会で認定され、防衛出動となって、ようやく自衛隊は警察から軍隊になるが、一発の核で東京は消滅してしまうのだから、これでは現代戦には合わない。相手国が『核で日本を火の海にしてやる』と言ってミサイルを準備したら、国際的に見て自衛権を行使する合理的な理由があるが、それにさえも足枷をはめている。一番怖いのはサイバー戦争である。攻撃を受けたらすぐに相手のコンピューターを攻撃しなければ間に合わない。ハイブリッド戦争について、クリミアを取られたときにどのようなことが起こったかを考えるべきである。朝起きたらテレビが見られない、電話やインターネットがつながらない状態で、ネットやメールでデマを流して、ロシア軍が侵攻した。ハイブリッド戦争は攻撃しているかどうかをわからないようにしているため、議論をしているうちに自衛隊は全滅してしまうだろう。本来は憲法改正が望ましいが、それが無理なら、少なくとも専守防衛という言葉をやめて戦略的守勢の国際常識を取り入れたら、自衛権行使で相当部分ができるようになるし、国会での議論も馬鹿なことにはならないだろう。」と、日本の防衛政策のうち専守防衛の問題点を鋭く指摘されました。
ノンフィクション作家で第13回「真の近現代史観」懸賞論文最優秀藤誠志賞を受賞された河添恵子様は、「今回受賞したテーマの重要な点は、今も歴史であるということ、そして国家は生き物であり、弱肉強食の中で国というものは動いていくため、強くなければなくなるということである。そうしたことを中心にファクトと合わせて書いてみた。昨年習近平がトリエステを訪れたが、そこはチャーチルが1946年に『鉄のカーテンが敷かれた』と言った際に言及した場所である。そこに興味を持ったので、私も昨年そこを訪れた。私はノンフィクション作家なので、必ずその国、その場所に行くようにしている。このような素晴らしい賞を頂いて嬉しく思う。」と、受賞作品のテーマについて語られました。
最後に塾長は、「講師の方々のお話は回を追うごとにレベルが上がっていて、今回は特に素晴らしい月例会だった。」と感想を述べて会を締め括りました。