勝兵塾第96回月例会が、5月16日(木)にアパグループ東京本社で開催されました。
冒頭のアパグループ元谷外志雄代表による塾長挨拶では、「アメリカのトランプ大統領と中国の習近平との米中経済戦争が厳しくなってきている。米朝会談でトランプが席を立ったことで、北朝鮮は弾道ミサイルを発射した。このように東アジアは危機的状況にあるが、日本で憲法改正の議論が進んでいるのか疑問である。次の参院選では、改選議席の71%に相当する87議席を獲らなければ、改憲勢力で三分の二以上の議席を確保することができない。したがって、現有議席のうちに改憲の発議をしなければ、二度と発議ができないだろう。にもかかわらず危機感が薄いのは、憲法改正を全く話題にしないメディアの無視戦略のためである。国民に危機感を持たせるために、例えば、北朝鮮がミサイルを発射する度に空襲警報を鳴らすべきではないか。世界で最も危険なのは日本である。だから憲法を改正し、非核三原則を撤廃して、アメリカとニュークリアシェアリング協定を締結する必要があるのだ。このままでは、三発目の原爆も日本に落とされるだろう。そうなったときに、自国が核攻撃を受けるリスクを冒してまで日本を助けることを、米国民は認めないだろう。核兵器は、何発持っているかではなく、持っていることが重要である。核を持つ北が韓国を併合して、人口8、000万人の核保有国が生まれ、中国の傘下で日本に突きつける刃となれば、日本はいずれ中国日本自治区になってしまう。次の参院選までに改憲を発議し、国民投票までの6カ月間で一大国民運動を起こして、国民投票で過半数の賛成を得なければならない。安倍総理の改憲案は、第9条には自衛隊を明記するだけで現行の解釈を追認するものだが、真の独立国家になるためには不十分であり、私は二回目の改正で第9条を本格的に変える二段階改憲論を主張してきた。しかし、安倍総理の任期が残り2年数カ月しかなく、その間に二度の憲法改正をするには時間が足りない。そこで、自民党の党則を改正して四選を認め、任期を2024年まで延ばす必要がある。トランプ大統領も再選がほぼ確実であるから、安倍総理とトランプ大統領のうちに二度の改憲を実現しなければならない。世界は新帝国主義時代を迎えているが、日本が平和で安定して発展していくためには、自分の国を自分で護れるようにならなければならない。」と、改憲の必要性を訴えられ、危機感の薄さに警鐘を鳴らされました。
レバノン共和国大使館特命全権大使ニダル・ヤヒヤー様は、「レバノンの歴史は約5000年前のフェニキア人に遡ることができる。フェニキア文字は世界最古のアルファベットで、地中海の北アフリカとヨーロッパに行商していたフェニキアの商人達によって世界中に広められた。フェニキア人は世界で初めてワインを製造・販売し、エジプトやローマ、ギリシャ、カルタゴに輸出した。彼らはレバノン杉の木から造った船を利用してワインを出荷し、地中海を航海し、地中海各地で都市を建設した。杉は長寿の象徴として聖書の中で77回言及されている。杉の木はレバノンの国の象徴であり、国旗にも現れている。レバノンはワインをEUや米国など国際市場に輸出している。さらにオリーブオイルの生産も盛んである。オリーブの木は聖書やコーランで何度も登場し、神聖な木の一つである。レバノンは昨年のニューヨーク国際オリーブオイルコンテストで、金賞と銀賞を受賞した。昨年11月にレバノンの第75回独立記念日と日本との外交関係樹立65周年を迎えた。1960年代以降、中東とアラブ世界で日本の商品と製品を最初に販売したのがレバノン人である。さらに、レバノンは何百人もの日本人を受け入れ、1970年代初頭には日本人永住者の数が三千人を超えた。貿易では、現在日本はレバノンに対して年間6億ドル以上の輸出をしている。さらに、レバノンは世界中に人材を送り出し、トランプ大統領の補佐官の中には2人のレバノン出身者がいる。日本では1989年5月2日付のThe Japan Timesで、日本に本社を構える商社のオーナーであるレバノン人が渋谷の大山に所有していた土地を売却して推定430億円稼いだという記事があった。」と、レバノンについて紹介されました。
自民党総裁外交特別補佐・衆議院議員の河井克行様は、「代表にご支援頂き、3月8日にこの会場でスティーブ・バノン氏の特別講演を行った。代表が話された通り、米中の鬩ぎ合いが、米中貿易摩擦から貿易戦争へと激化してきているが、最終的には国同士、あるいは同盟国や友好国を巻き込んだ大規模な鬩ぎ合いになるだろう。5月8日付のニューヨーク・タイムズの中国語版に興味深い記事が載っていた。『米中貿易戦争は最終段階を迎えている。トランプ大統領は明らかに優勢にあり、習近平主席にとっては面目を大きく失うものになるだろう。その背景には、習近平主席が米中関係を適切に管理していないことがある。過去の中国の指導者はいずれも米中関係の重要性を認識して改善に努力をして利益を得ていたが、習近平主席は強硬路線を一貫して堅持してきた。そのことが一部の米国人にとっては警鐘となり、穏健派の2つのグループが『米国は中国に対する認識を根本的に改めるべき』とする声明を発表した。こうして親中派と政権内のタカ派の考えが一致した。習近平主席はこうした大きな変化を察知することができていない。』といった内容である。トランプ政権のタカ派の代表がスティーブ・バノン氏だと思われる。2017年12月18日に彼と会った翌日に国家安全保障戦略が公表されたが、その中身についてバノン氏は、『中国はこれまでは戦略的な提携相手であったが、今後は戦略上のライバルとなる。対中政策の大転換は、ニクソン大統領以来である。年明けから4、5発、中国に対して通商面での様々な仕掛けを実施していく。』と予言していたが、その通りになってきている。私は、ディールの中でのブラフといった戦術的なことではなく、戦略的な求めによってトランプ政権が動き始めているのではないかと考えている。5月10日付のラジオ・フリー・アジアの中国語のサイトで、『今回の交渉が決裂するならば、中国に指導体制に影響を与えるだろう』という匿名の専門家の意見を紹介している。さらに、『少なくとも2019年中には、中国の政治体制の上層部で大論争が始まり、それがいずれ習近平主席個人及び当面の中国経済路線も影響を受けていくのではないか』と言っている。こうした中で6月に迎えるのがG20である。この場を仕切れるのは安倍総理しかいない。安倍総理がどのような捌きをしていくのか、注目していただきたい。日本外交、安倍外交の神髄をもうすぐ目の当たりにするだろう。」と、アメリカの対中政策の転換について解説されました。
自民党総務副会長・衆議院議員の中山泰秀様は、「現代の戦争は、伝統的な陸海空に、宇宙とサイバーが加わった、まさにハイブリッド戦争である。憲法改正の議論の中で、いつまでもサイバー権が論じられないのが不思議であり、サイバー権を憲法の中に盛り込むべきである。東南アジアのある空港で、音響システムを中国人らしきハッカーが乗っ取って、南シナ海に関する中国の主張をプロパガンダ展開した。この空港のシステムは関西空港と同じシステムを使っており、日本でも今後国際イベントをターゲットにしてテロリストが入ってくる可能性がある。先日スリランカでテロが起こったが、シリアにいたISの兵士が戻ってきて、東に移動してきており、日本もものすごくリスクが高くなっている。アメリカはインターネット上のすべての情報を精査している。我々が使っている指紋認証や顔認証の情報はどこかに行っている可能性がある。インターネットは海底ケーブルでつながっており、東日本大震災では地殻変動でケーブルが切れ、ATMが動かなくなった。千葉の銚子や三重の伊勢志摩に海底ケーブル陸揚局があるが、警備が足りない。電話回線は2024年を最後にIP化される。すべてのコミュニケーションはインターネット経由になるため、よりハッキングしやすくなる。先日ある大手通信機器メーカーのサーバーがハッキングされた。消火栓をハッカーが乗っ取って誤作動を起こさせ、サーバールームは二週間使えなくなった。民間企業がテロに襲われたらどうすべきか、アメリカのように皆で情報共有して対策していくべきである。隠蔽工作ばかりしていたら、日本企業はテロリストの餌食になる。中国では、大きく二つのインターネット対策をしている。一つは万里の長城作戦で、国内の人達が海外の情報を取りにくくするものである。もう一つは対外向けの『網電一体戦』である。これは新華社通信が2000年12月に発表したが、中国はこれからハイブリッド戦争をやるとはっきり宣言している。中国のサイバー戦用のソフトウェアに、攻撃対象を入力し、例えば『停電』を選んで攻撃ボタンを押すと、すぐにその対象で停電が起こる。最近台湾で良く停電が起こるので心配である。日本でもたまに停電があるが、もしかしたらサイバー攻撃かもしれないという発想を持てるよう、危機感を養って頂きたい。それがカウンター・テロリズムの第一歩である。北朝鮮について気を付けなければならないのは、ゲームソフトで無料のもののほとんどは、コストが最も安い北朝鮮で作られていることである。そこにマルウェアが仕込まれていると思った方が良い。また、日ロ交渉をしているが、日本とロシアが交渉している間のこの1年間で、ロシアは二つの光ファイバー網を整備した。一つは北朝鮮である。北朝鮮は中国とロシアの2つのルートからサイバー攻撃をできるようになった。もう一つは、北方四島である。ロシアが北方四島を返す気があるのなら、そんな整備はしないだろう。」と、サイバーテロに対する危険性を強く訴えられました。
内閣府大臣政務官・衆議院議員で勝兵塾関西支部長の長尾敬様は、「昨年6月の厚生労働委員会で二つの質問をした。一つは外国人の健保不適正利用の問題である。一度も日本に来たこともない外国人が、家族が日本で健保に加入していることで、海外で病気になって来日して、高額療養費制度などを利用できるのはおかしいという問題である。昨日健康保険法が改正され、扶養家族の健保加入は同居が条件となった。もう一つは、外国人の入国だけを管理し、在留状況を管理できていないという問題である。以前の勝兵塾で馳先生から、『入国管理局はあるが、日本にいる外国人がどのような在留状態にあるのかを管理するためにはどのような組織が必要か?』という質問があり、私は『入国在留管理庁のような組織が良いだろう。』と答えたが、この4月1日に入国在留管理庁ができた。これまで多くの外国人が日本に来たが、適正に日本に滞在していたかが把握されず放置されていた。今後はきちんと把握されるようになる。また、内閣府大臣政務官として、全世代型社会保障制度に取り組んでいる。人生100年時代と言われるが、健康かどうかで意味合いが違う。健康寿命をいかに伸ばすかが大切であり、これから医療の概念が変わっていく。つまり、病気を治すだけでなく、健康な体、病気になりにくい体を作っていくことが求められている。10月に予定されている消費増税は、現時点では『法律通り増税する予定』と言われている。『リーマンショック級』のことが起これば先送りするという表現もあるが、これまで2度先送りしたときは『リーマンショック級』とは言っていない。テールリスクに気を付ける必要があるが、例えば、働き方改革で残業時間に上限が課されたことは過労死対策には有効であるが、一方で残業代が青天井ではなくなったことが経済的にどのような影響があるかも考えていかなければならない。日本はこれまで大変な危機に際してエネルギーを発揮してきた。平成バブルが崩壊し、10兆4千億円の公的資金が投入されたが、現在は1兆6千億円の余剰金がある。経済は確実に成長しているが、緩やかなため実感していないだけである。安定政権なくして憲法改正はなく、安定政権のために経済政策をやっている。」と、様々な政治課題への取り組みについて話されました。
ノンフィクション作家の河添恵子様は、「3月25日にアメリカで、『現在の危機に関する委員会:中国』というものができた。危機委員会ができたのはこれで4回目である。1回目は朝鮮戦争のとき、2回目はカーター政権が始まる直前にソ連の脅威に対して、3回目はブッシュJr.の時代で、テロとの戦いのためである。スティーブ・バノン氏もこの委員会のメンバーであり、最初の委員会で講演された。これは、米中新冷戦時代の幕開けだと考えている。1年前には10年振りに、トランプ政権による重要な軍事政策が出され、テロとの戦いから、中国・ロシアを警戒する方針に転換した。トランプ政権になって台湾との関係が非常に強化され、2018年の国防授権法によって、米国の艦船は高雄などの台湾の港に来ている。さらに、昨年3月の台湾旅行法で、トランプ大統領は台北で蔡英文総統と会談できるようになった。台湾を国に近いレベルにまで引き上げている。トランプ氏は大統領になる前、次期大統領の立場で、『「一つの中国」の原則になぜ我々が縛られなければならないのか』と、キッシンジャーの呪縛を踏襲しないことを宣言した。去年の大晦日にはアジア再保証推進法に署名した。これには台湾への防衛装備品の売却なども盛り込まれている。この2日後に習近平は、鄧小平が語った『台湾同胞に告げる書』の40周年大会で、「中国人は中国人を攻撃しない」と言ったが、誰もこれを信じていない。トランプの一般教書演説では、中国との貿易戦争に関して、『中国が長年にわたってアメリカの産業を狙い知的財産を盗んできた今、雇用と富を盗むのはもう終わりだということを明確にしておきたい』と語った。昨年8月13日の国防権限法では、中国のファーウェイを含む5社と取引している企業は、アメリカ政府機関とは取引できなくなった。対テロ戦争を宣言した9・11の頃から特に進んでいったのがサイバー空間のバージョンアップである。『情報通信産業は利益の追求という経済的インセンティブに動かされながら、いつしか世界の軍産複合体の核となり、戦争と支配の下支えをしている』と、スノーデンが言っている。しかもスノーデンは、アメリカが世界中を監視していることを暴露した。中国も同じ時期から同じことをしている。中国の監視体制には三つあるが、一つは、グレート・ファイアーウォールである『金盾工程』。これは中国全体をイントラネット化することである。もう一つは、AIによる監視システムである『天網工程』、最後の一つは、農村を監視する『雪亮工程』である。さらに世界で問題になっているのがGAFAとBATHである。GAFAはグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンだが、BATHはバイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイである。両社は完全な合わせ鏡になっている。元々はGAFAの方が進んでいたが、技術を盗んだり買収したりしてBATHの方が大きくなってしまった。しかも、グーグルもフェイスブックも習近平に非常に近くなっている。中国側のBATHは民間企業であるが、完全に軍の企業である。これを中国は社会信用システムとして使っている。反政府的なことを発言すればペナルティが与えられ、中国では飛行機にも電車にも乗れなくなる。さらに習近平が進めているのは、世界監視システムである。それが可能となるのが5Gである。5Gによってサイバー空間は非常に危険なものになる。それを中国に握られて良いのかとアメリカは主張している。中国政府の組織として、2000年代にCNNICという組織があり、そこがグーグルやフェイスブックを制御下に置き、中国ドメインの分析が行われていたが、2014年2月に、習近平が中央ネットワーク安全情報化指導グループという党の組織を立ち上げて、ネット空間を動かすようになった。しかし、サイバー空間と宇宙空間の軍拡を進めてきた実質的な権力者は、『電信大王』と呼ばれる江沢民の息子である。」と、アメリカの対中政策と中国のサイバー空間における軍拡を解説されました。
最後に塾長は、「サイバーなどの新しい領域に自衛隊の体制がほとんど対処できておらず、昔の第二次世界大戦の延長で訓練や整備をやっている。最近は空母を配備しようとしているが、空母を保有するくらいなら地方の空港を整備し、地下に格納庫を持ち、空爆されても持ちこたえられるようにしておけばよい。航空母艦というのは太平洋の向こう側に行って戦争するためのものであって、専守防衛という立場にあっては、日本の地方空港を整備する方が余程安上がりである。さらに、F35の滞空時間を伸ばすため、給油機を増やすべきである。また、自衛隊員の数を半減させてでも、少数精鋭で最新の兵器を整備するべきである。日本が最も進んでいるのが、深深度潜水艦や深深度魚雷である。日本の潜水艦は他国の潜水艦が潜れない深度まで潜ることができ、そこから上に向かって攻撃をすることができる。情報システムでも兵器でも、日本は独自の安上がりなものを持つ必要がある。何千憶円もかけて迎撃ミサイルを配備しても、同時に多数のミサイルを発射されれば、防ぎようがない。最も大事なことは抑止力としての攻撃力を持つことである。攻撃力だけならさほどコストはかからないが、防衛だけだと膨大なコストがかかりながら、全く役に立たない。もっと軍事をよく理解した上で、日本独自の戦略を持って自衛隊をもう一度装備し直す必要がある。世界で最も危ういのは日本である。だからこそ、早く憲法改正をしなければならない。これまで二段階改正論を主張してきたが、できれば一度の改正で、自衛隊が、国軍として抑止力としての攻撃力を持つとともに、近代兵器を配備して、少数精鋭部隊を創るべきである。」と日本の安全保障の在り方について論じて、会を締め括られました。