第167回 勝兵塾月例会レポート

公開日:2025/5/28


塾長・最高顧問 元谷 外志雄

勝兵塾第167回月例会が、5月15日にアパグループ東京本社で開催されました。
 冒頭のアパグループ元谷外志雄会長による塾長挨拶では、「今回の勝兵塾月例会は167回目の開催となり、金沢・関西各支部を合わせると合計470回目の開催となる。学校やメディアでは知ることができない、『本当はどうなのか』を知る機会を提供する場として勝兵塾を開催しているので、活発な議論が交わされることを期待したい。」と述べました。


参議院議員で参議院内閣委員長 和田政宗様

参議院議員で参議院内閣委員長の和田政宗様は、「ちょうど本日5月15日、『能動的サイバー防御』の導入法案を参議院内閣委員会で可決することができた。ウクライナ戦争でも、まずインフラ施設等にサイバー攻撃があった後に爆撃が始まったように、サイバー攻撃は単なるハッカー集団によるものではなく、背後に国家があるため、日本としてはこれを防御していかなくてはならない。こういった観点から、与野党で充実した審議をいただき、可決の運びとなった次第である。それ以外にも、内閣委員長として、今年を戦後80年の節目と捉え、国の在り方をいま一度見直し、未来に向けて日本が発展できるような政策を実現させていきたいと考えている。特に私が注力しているのが、航空機産業をしっかりと日本で復活させ、発展させていくことである。第二次世界大戦中期頃までは、日本が世界でトップの航空機製造能力を有していた。米国は日本の航空機開発能力を恐怖に感じたため、大戦後から主権回復までの間、日本は航空機の研究すら禁止された。また米国の妨害もあり、日本は未だに中大型のジェット旅客機を造ることができず、三菱重工業が主導していた旧MRJ、三菱スペースジェットも、米国での認証が下りず、開発費用が嵩んで断念に至った。このような前例を踏まえ、昨年経済産業省より発表があったが、2035年までの10年間で、官民合わせて5兆円を投資して中型ジェット旅客機を造り、その後量産体制に入る計画になっている。部品で見れば既に日本は主翼部分やエンジンなどの主要な航空機部品を製造しており、ボーイング787の部品のうち、35%は日本製である。自動車は1台あたりの部品が3万個だが、航空機は300万個であり、多大な工場需要の創出が見込まれる。工場が広大な土地と水を有する地方、例えば新潟や北陸にできると、地方創生にもつながり、政府の推進するUターン・Iターンも活性化する。私は現在、自民党内の航空機産業推進議員連盟の事務局長を務めており、航空機産業の発展に尽力していく。最後に、教育についてお話ししたい。第二次安倍政権からの成果が各所に出ている。まず、2018年に道徳を教科化をしたことで、先生の思想に左右されず、学習指導要領に則った教科書に基づく教育が行われている。また、2019年にはGIGAスクール構想が開始された。全国の生徒1人ひとりに1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する取り組みであるが、世界で唯一、日本だけが実施できており、その成果が上がっている。私の息子は中学生で3DCADを使い、娘も小学生でリモート会議を使いこなしてグループ発表の準備をしている。前述した航空機産業も含め、子どもたちの能力向上と合わせて成長発展すれば、必ず世界トップの産業大国となれると思っている。今後も塾長のご指導も賜りながら、しっかりと職務を全うしていく。」とお話されました。


衆議院議員 橋本幹彦様

衆議院議員の橋本幹彦様は、「私は公職に就く前、防衛大学校を卒業し、航空自衛隊で現場を経験しており、そうした現場の危機感を持ちながら国政に携わっている。防衛の話となると人手や武器の話に終始しがちだが、今回は真の国防とは何なのかについて、文民統制をキーワードにお話ししたい。私は昨年の衆院選で初当選し、今年2月に衆議院予算委員会にて自衛隊の本質的な問題に取り組むために、国会の政府参考人として自衛官、いわゆる『制服組』の答弁を要求したところ、立憲民主党の安住予算委員長に文民統制の観点から自衛官を国会に呼ぶことは認められないと指摘され、自民党の方からも同様の意見をいただいた。しかし、そもそも文民統制とは、民主主義国家において政治が軍事をコントロールすることであり、その観点から考えると国会に制服組の方を呼ぶことは、何ら文民統制上問題があることではなく、むしろ国民のための国防を真剣に議論する機会となると考えている。しかしながらそう言った理解が国会議員、与党の間でも解像度が低いのが現状であった。その後に産経新聞から『文民統制を履き違えるな』と題した社説が出たことをはじめ、リベラル寄りである毎日新聞や西日本新聞においても、制服組の国会答弁がタブーとなっている点について特集で取り上げられている。世論にも理解が進んでいることは喜ばしいと考え、また国会でも1ヶ月ほど経ち、ベテラン議員の方々からも、『やはり橋本くんの意見は正しかった。』と言葉をかけていただいた点も大きな前進であった。一方で、この文民統制に関する話は、国会で国防の議論をするに当たっての初歩の初歩であり、これから更に議論を加速させなければならない。その際に忘れてはならない重要な点が、自衛官としての魂の問題である。自衛官は命を賭して戦う存在であるから、もし任務中に亡くなられた場合にいかにして顕彰するのか。そして、自衛官は何のために戦うのか。自衛隊法には『我が国の平和と独立を守る』という言葉があるが、本当に守るべきは何なのか。この魂・思想の問題を国会だけでなく防衛省も含め理解を深めていく必要がある。自衛隊は国民の多くから、とある調査によれば約9割から信頼されている組織であるが、これは主に災害対応の観点からの信頼であり、国防という崇高な使命に基づく信頼では決してなく、本質的な信頼には至っていない。また国会答弁について、自衛官も面倒な仕事として忌避しているのではないかという産経新聞の記事もあるが、私は自衛隊も、国会答弁を国民に対し真に国を守ることの説明責任を果たす場として忌避せずに、積極的に参加する必要があると考えている。最後になるが、5月30日に衆議院憲政記念館で政経セミナーを開く。あえて平日の日中に開くことで官僚の皆さまにも来ていただくことを目指しており、官僚や自衛官、そして国民も含め一体となって文民統制とは何かという基本的な素養を引き上げてまいりたい。」とお話しされました。


慶應義塾大学名誉教授・公益財団法人アパ日本再興財団理事 塩澤修平様

慶應義塾大学名誉教授・公益財団法人アパ日本再興財団理事の塩澤修平様は、「今の自衛隊で、国防の抑止力を維持し高めるに当たっての一番の政治的な課題は何なのか。」と質問され、橋本様は「近年の変化で一番大きな点として、予算が5兆円から8兆円に増えたことである。従来は大半が人件費で消費されていたが、予算増額によって装備品や物資への投資ができるようになった。しかし、その予算を使いこなせていないところが一番の課題である。また、先ほど魂という話をしたが、自衛隊の知性を高めるために知的基盤を整備していくのも課題であると考えている。」と答えられました。


日本戦略情報研究所所長 林文隆様

日本戦略情報研究所所長の林文隆様は、「トランプは米国貿易赤字の減少を目指し、報道の通り様々な策を打ち出している。4月に相互関税を発表した際、私は米国が基軸通貨としてのドルの重みに耐えかねてきたと実感した。遡ると1944年のブレトンウッズ会議で提案があった超国家的な通貨のバンコールを否定し、一国の通貨であるドルを世界通貨にした米国だが、ドルを基軸通貨とするメリットは当然ある。覇権国家としてドル覇権を確立し、世界のマネーを自国に流入させることができたが、しかしデメリットが巨大化してきた。つまり世界にドルを供給するために製品を輸入すると、高賃金を支払っている米国国内の製造業はコスト競争で敗れ、衰退してしまう。トランプのMAGA政策の中心にあるのは1950・60年代の米国、つまり世界一の製造業を誇る米国を取り戻したいという考えである。当時の米国は雇用創出も大きく、技術水準も世界最高、貿易も大幅に黒字であった。しかしそれは、第二次世界大戦で当時の欧州・日本が疲弊しており、アメリカの競争相手がいなかったから、ある意味当然であった。そこから他国が復興してくると、世界で最も高価な人件費となる米国は、コスト面で他国に歯が立たなくなる。大戦直後からのGDP構成比を考えると、1950年ごろは28%ほどあった製造業が、現在は10%程度まで低下し、代わりに金融や不動産などの資本効率のよい産業にシフトしている。ドイツや日本のGDP第二次産業比率が約30%あるのとは対照的である。基軸通貨としてのドルを活用し、資本効率の良い金融業を行っていたが、雇用創出の側面が失われていき、製造業の復活に向け貿易赤字の解消を目指している。相互関税により、米国内に海外製造業が流入してくるという思惑と推測するが、海外拠点の移動には時間がかかり、また政権交代によって政策が変わることを考えると各国製造業は様子見している。また世界のサプライチェーンは複雑化しており、部品の多くを海外が作っていることを考えると、仮に米国に進出したとしても米国内に技術やノウハウが十分ではない。また、相互関税によって米国の輸入が減少しドルの流通が停滞すると、新しい経済圏の開拓としてユーロ経済圏とTPPが統合することも考えられる。しかし、世界各国のGDPを見てもEUやTPP加盟国は小国が多く、発展途上国の経済規模にも限界がある。20世紀の覇権国家は米国と言われているが、覇権国家の寿命は95年±15年と言われており、米国の覇権が1917年頃から始まったとすると2027年頃に変わり目がくるとされている。そして以前にオックスフォード大学が発表した研究によると、21世紀の覇権国家は日本とされている。」とお話されました。


著作家 宇山卓栄様

著作家の宇山卓栄様は、「皇統のお話として、はじめに皆さまに耳馴染みの少ない言葉を一つお伝えしたい。『宗系の紊乱』という言葉である。後ほどその意味についてもご紹介するが、明治時代に井上毅が『皇族互いに男女の養子をなすことを禁ずるは宗系紊乱の門を塞ぐなり』として言及した言葉である。現在、与野党の協議会で皇族数の減少に関する対策を検討しているが、議論が煮詰まっていない点がある。2021年、政府有識者会議の報告書によれば、1点目は『内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することとすること』とあり、2・3点目は皇統男系の男子に皇室復帰してもらい新たな皇統をつなぐための案である。現在、これを具体的に法制度化できるかどうかについて与野党は協議を進めているわけだが、具体的に愛子内親王殿下が仮に旧宮家の男系男子とご結婚されるケースを考えてみたい。前述の1点目に基づき、愛子様はご結婚後も皇族のままとなる。また2点目により、旧宮家の男系男子の方も皇族となる。自民党もこの有識者会議報告書の案に沿って提案をしているが、私はこれを推進すると重大な問題が生じると考える。なぜならば、もし上記案に沿うとすると愛子様の系譜から男系皇統がつながることとなり、それは非常に喜ばしい反面、秋篠宮家との関係がどうなるのかについても同時に考慮をしなければならないからである。ご存知の通り、世論には愛子様が天皇となることに賛成するものがかなり多い。その中で男系皇統が愛子様からつながるとなれば、世論が一気にそちら側に引っ張られ、政治もそれに付和雷同して継承順位を変更してしまう話になりかねない。これでは秋篠宮家の立場はどうなるのかということで、ここで井上毅が言った『宗系の紊乱』が起こることになる。彼が何を言っていたのかというと、皇室・皇族が養子を禁じているのは宗系の紊乱を防ぐため、つまり皇統が混乱することを避けるためということである。国民統合の象徴である天皇が分断の象徴になってしまうことがあってはならず、皇統の継承についてはそのようなことがないように与野党で十分に協議をしたうえで、法案として整理していただきたいと思っている。」とお話しされました。


計画哲学研究所所長、工博、元早稲田大学客員教授、新しい日本を創る会代表 三輪真之様

計画哲学研究所所長、工博、元早稲田大学客員教授、新しい日本を創る会代表の三輪真之様は、「昨年の10月ごろ、30代前後の男性数名と話をする機会があり、そこで私は『日本が例えば他国から攻められたら、君たちは何をするのか?』と聞いたところ、『自衛隊に頑張ってもらう』と答えたのみで、さらに、彼ら自身がどう行動するかについて問うと、絶句した。私はひょっとしたら、これが日本国民の多数派の本音ではないかと感じ、慄然としたことがあった。また保守の論客の方は皆さん志も高く、愛国の心も持たれている。そういった方々が一生懸命に活動されているのにも拘わらず、『なぜ日本の保守はまとまらないのか』というモヤモヤ感をずっと抱えていた。『日本の保守の国防論』においては、誰が、どのようにして、日本という国の何を守るのか、という根本がぐらついているため、しばしば苛立ちを禁じ得ない。最近、そもそも日本の保守について思想や活動がどうなっているのかという話題が多い。少なくとも前提として、日本を守ることが日本の保守の絶対要件である。その上で、多くの国民にとって、国と国家はイコールでは決してない。いわゆる政治学や国際法における『国家の三要素』は領域・住民・主権であるが、国民にとっての『くに』は自分たちの故郷がまとまったものである。そこで私が、特に石破首相に問いかけたいのは、国を守るという言葉の中にふるさとを守っていくという意識は本当にあるのかということである。次に、言葉の定義についてお話したい。『まもる』(守る・護る・衛る)ことと『ふせぐ』(防ぐ・禦ぐ)ことは意味が異なる。『まもる』は、ご先祖様も含めみんなが大切にしてきた良いことを継続させるのが本義である一方で、『ふせぐ』は、悪いことや理不尽なことを起こさせないのが本義であるため、『まもる』ことには、より肯定的な意味がある。その意味で、『国防』という日本語はかえって、国民の国を『まもる』という意識を希薄にさせてはいないだろうか。国防という言葉を用いて議論すると、『ふせぐ』ことに重点が置かれ、『まもる』ことが軽視されがちである。そこで、では日本国民が力を合わせて『まもる』ものは何か。1つ目は海も含めた国土。2つ目に国民。そして3つ目に国語である。諸橋事務局長も常々ご指摘されているが、マスコミも含め、言葉の使い方に問題があることが散見される。国語は民族の象徴として大切にしていくべきである。そして4つ目、最後に国体である。その国の長い歴史において形成されたお国柄がある。私は天皇制については、制度としてではなく、政(まつりごと)の理想としての天皇制と考えている。皆さまからも多様なご意見を賜れればと考えている。」とお話しされました。


参議院議員 石井苗子様

参議院議員の石井苗子様は、「両ひざの手術をした関係で、一時的に車いすで生活し、国会でも活動しているが、その経験を通じて色々と発見、勉強することが多い。こうした気づきを今後の政策にも活かしていきたいと考えている。最近、防衛省の方たちと自衛隊について話すことが多いが、実際に戦場で活動する部隊、いわゆる『Boots on the Ground』と呼ばれるところがなくても、遠隔で人を殺せる時代になっている。特にサイバー攻撃が深刻であり、能動的な防御体制の構築が必須である。そこに向け、サイバー人材が不足している点が喫緊の課題である。少し前の楽天モバイルの不正アクセスについて中高生が主犯だったが、彼らの更生の場としてその技術を協力してもらうアイデアを提案した。強い日本を作っていくには、単純な人員強化だけでなく広い意味で自衛隊を強化しなければならないと考えている。」とお話しされました。

最後に塾長は、「5月10日にアパグループは創業から54周年を迎えたわけであるが、私は事業活動と言論活動を車の両輪のようにして今日までやってきた。この勝兵塾についても言論活動の一環として、『本当はどうなのか』ということを知る機会になればと思い開設した。今後もこうした活動を引き続き行っていきたい。」と話し、会を締め括りました。