第161回 勝兵塾月例会レポート
公開日:2024/11/27
塾長・最高顧問 元谷 外志雄
勝兵塾第161回月例会が、11月21日にアパグループ東京本社で開催されました。
冒頭のアパグループ元谷外志雄会長による塾長挨拶では、「アパグループは11月決算であるが、2024年11月期の売上見込みは売上高2,150億円、経常利益650億円といずれも過去最高の数値を見込んでいる。今回の勝兵塾は東京で161回目、通算453回目の月例会となる。今回より東京会場はアパグループ東京本社の新会議室を用いた月例会となり、ここで装いも新たに、勝兵塾が『本当はどうなのか』を知る会としてますます盛況となることを期待している。」と述べました。
麗澤大学特別教授、モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所教授 高橋史朗様
麗澤大学特別教授、モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所教授の高橋史朗様は、「今回は私のライフワークの一つである『師範塾』についてお話しさせていただく。2006年にPHP教育政策研究会編集として、『親と教師が日本を変える』という本を出版した。教育を行う側である親や教師を変えれば教育が変わる。その目的を達成するために師範塾を設立し、東京・大阪・埼玉・福岡で10年以上実施した。大谷翔平も用いた目標達成シートを考案した原田隆史という教師も、大阪師範塾の2期生である。大谷翔平の目標達成シートは今や道徳の教科書にも用いられているほどであるが、彼のシートには運やプラス思考、礼儀や思いやりという言葉がある。特にプラス思考とは『心のコップを上に向ける』ことで、これは主体変容につながる。つまり私はここに、国の教育振興基本計画の目玉にもなっている、日本社会に根差したウェルビーイングのモデルが凝縮されていると思っている。話を師範塾に戻すと、埼玉師範塾の名誉会長は上田清司埼玉県知事(当時)、初代会長は故井原勇元与野市長(当時)であった。師範塾の理念の一つは吉田松陰の『師道』という教えであり、これはいたずらに人の師となるのではなく、真に教えるべきことがある人が師となるべきだという考えである。師範塾は日本の教育を変革するため、教師と親を意識改革させることを出発点に、『一人からの教育改革』というスローガンを掲げスタートした。しかし一方で、教育の現場では学級崩壊という問題が絶えない。それは家庭教育と学校教育が不連続であり、学校での校則等に子どもが対応できないためである。師範塾で講演いただいた中で印象に残っているのは、広島の安西高校の山廣康子校長のお話である。安西高校は当時恐らく日本一荒れていた高校であったが、校長自ら保護者に電話し、家庭でお子さんと一緒にトイレ掃除をしてほしいと徹底的にお願いした。その結果、見事に学級崩壊を脱したのである。同様に、荒れた中学校を全国大会の常連校に導いた教師は、森信三氏の唱える躾の三原則や守破離の法則を取り入れていた。これらはいずれも日本の文化に根差した考え方を教育に取り入れたものである。一方で、日本の子どもの幸福度、生活満足度は、PISAという国際調査によると先進国で2番目に低い。こうした問題の原因は親との絆が不足していることにある。作家の曽野綾子氏はいじめ問題に対して、学校ではなく家庭教育を変えないといけないと力説されたが、全くその通りだと思う。本日は今安志保氏にもお話いただく。主体変容とは自分が変わることであるが、それを敷衍して親や教師とこども、そして地域社会全体が幸せになっていく『親道』を今安氏は実践されており、是非お話を聞いていただきたい。」と、子どもの師となる親や教師の教育の重要性についてお話しいただきました。
塾生より、「世の中では夫婦別姓といった家庭崩壊につながるような議論が交わされており、また社会における近所づきあいのような関係性も希薄になっている。また教育現場でも倫理観の押し付けのような教育が行われている現状についてどう思われるか」と質問があり、高橋様は、「子どもを社会が育てるというのは共同養育日本の伝統的な文化であり、江戸時代末期に日本に来た外国人が驚いたというエピソードもあるが、近年は損なわれつつある。家庭や家族という組織についても、マルクス主義的な価値観から男が女を支配する奴隷制であるという誤解が教育の現場を支配している。また、夫婦別姓については子どもの立場から考え、父母の姓が違うことがどのような影響を子どもに与えるかについて議論すべきである。我々は共通性および多様性の2つをそれぞれ縦軸と横軸として捉え、家族のような共通性についてはバランスをとって維持していくものであると考えている。』と答えられました。
前衆議院議員 杉田水脈様
前衆議院議員の杉田水脈様は、「かつて私が兵庫県の西宮市役所で働いていた際に、当時経産省課長補佐で現衆議院議員の鈴木英敬氏主導でスーパー公務員塾というものを立ち上げ、組織のためではなく目の前にいる市民のために働く公務員を養成していた。その際、高橋先生のお話に出てきた原田隆史先生が講演にいらっしゃったことがあり、大人に対する生活指導を通じた教育改革についてお話をしていただいた。高橋先生は発達障害をお持ちのお子さんに対し、なかなか通常の教育だけでは不足しがちな状況に対し、音楽など独自のアプローチによる教育プログラムを通じ向き合うという先駆的な取り組みをなさっており、これも高橋先生の功績だと思っている。私の今日の本題は安全保障であるが、安全保障の分野にも教育は関わってくるはずである。数十年前のイギリスがイギリス病にかかっていたように今の日本は『日本病』にかかっている。それを治癒するには単純に防衛や経済を強化するのではなく、教育を通じて防衛や経済に関する人づくりを行うことが重要だと感じる場面が多い。ここ数か月間は高市早苗氏の総裁選推薦人集めに奔走し、私自身は出馬しなかったものの、その後の解散総選挙を含め、国会は大忙しであった。一方で世界を見ると、衆議院の解散公示日に、北朝鮮が韓国と通じる連絡通路を爆破した。それまでにもロシアは韓国へ圧力をかけており、ウクライナへはロシア側の勢力として北朝鮮の兵士が派兵されている。こうした情勢を鑑みると、ロシア・北朝鮮・中国は裏で繋がっていて一体とみて差し支えない。となると、台湾有事について我々は議論をしてきたが、それだけでなく台湾有事と朝鮮半島有事が連動して起きる危険性についても検討する必要がある。ロシア・中国はアメリカの力を削ぐために、アメリカが支援しているウクライナやガザ地区、そして台湾や韓国に圧力をかける可能性があり、それらの有事が同時に起きた際のシミュレーションについて早急に検討する必要がある。また、今後外交において日本がどのように存在感を発揮していくのかも喫緊の課題である。しかし、今回の衆議院選挙ではそこを論点とすることなく、政治とカネの問題に終始してしまい、その結果自民党・公明党は少数与党になってしまった。本日は要点のみ簡潔にお話させていただいたが、今後の講演会のチラシも皆さまへお配りしている。実は本塾の来月月例会日程と重なってしまってはいるのだが、こうした講演会等を通じて今後の目標に向けて邁進していきたいと思っている。」と安全保障をテーマにお話しいただきました。
株式会社パブリックヒストリー取締役 今安志保様
株式会社パブリックヒストリー取締役の今安志保様は、「私は兵庫県の三田市で生まれ育った。国鉄、そして民営化してJRの駅長を勤めていた私の父からよく言われていたことは、『耐えるんや。「忍」の一字を大事にしろ』ということである。日本人に大事なことは、辛抱することだと父から学んだ。私はピアニストとして、見るだけで目が回るような難解な楽譜と向き合い、ひたすら辛抱して練習することで弾けるようになったという成功体験がある。私がピアノ教室を始めた際、生徒の中にはピアノの前に集中して座れない子や、急に泣き出すような子がいた。私はやがて、これは親の責任であり、親が辛抱できていないからだと分かった。私は自分の子どもを育てるときにピアノの仕事をやめ、お腹にいるころから本気で子どもと向き合ってきた。結果として私は親と子の関係に約40年間向き合ってきたのだが、そこで気付いたこととして、道徳心や正義感、思いやりといった心は、子どもが生来持って生まれてくるということである。その能力を守り育むアプローチをすれば、どんどん自身の本来性に気付いていく。では、どうやって気付かせるか。それが『親道』である。『親道』とは、親と教育者が子どもの能力を損なうことなく、『生きた実践法』を習熟することであり、結果として『共に変容する』、つまり自身の本来性を取り戻し、真のウェルビーイングを実現する人財となることができる。私が特に大事にしている考え方として、何事にも主体と客体があるということである。例えば私が子に『生まれてきてくれた』と感じて、子が私に『生んでくれた』と双方向で気持ちが通じると、そこに恩という感情が生まれる。また私の父からは、『感恩報謝をしないとあかん』と言われていた。感恩報謝をするためには単なる感謝だけではなく恩報、つまり恩に報いることが必要である。それはつまり、子として親に対し、生んでくれた恩に報いるということである。そうした心を持って、私は認知症の方や泣き止まない赤ちゃん、40歳で会社へ行けなくなった方の事例を解消することができた。私は医者ではなく、ただ日本という国が持つ感恩報謝という観念を伝えただけである。そして彼らの恩に気付かせ、それに報いる気持ちを思い出させたのである。『辛抱する』、この日本人が失ってはいけない大切な言葉を赤ちゃんのころから人生の大先輩まで、『親道』というものを通じて伝えていく。そのお手伝いができればと考えている。」と、恩に報いることの重要性についてお話いただきました。
パソナグループ参与、元内閣官房参事官・経済産業省 檜木俊秀様
パソナグループ参与、元内閣官房参事官・経済産業省の檜木俊秀様は、「裏金問題に終始し、ますます混乱を増す国際環境の中で国防などの重要な問題を議論しない政治家やマスコミに失望していたが、日本の将来について真剣に討論している勝兵塾の存在を知った。私は官僚時代に、『特区』のアイデアを出して法整備まで行うなど、通常の官僚に比べ非常に多くの官庁の主要な規制に関する議論に参加してきた。そうした経験も踏まえ、微力ながらこの勝兵塾に参加・協力させていただきたい。私は昭和32年生まれで、当時の通産省(現在の経産省)に入省した。幸運なことに20代の頃に渡部昇一先生、江藤淳先生お二方から個別の勉強会で保守主義について学んだことが貴重な財産となった。経産省時代は米韓中との通商交渉関係を行い、最終的には小泉政権下で規制改革に携わった。特区室という内閣官房の部隊でリーダーを務め、同僚・部下には後に国会議員となる玉木雄一郎氏、鈴木英敬氏、上野賢一郎氏、福島伸享氏、後藤祐一氏がいた。5名が国会議員となるのは一部局としては異例なことである。それは霞が関の規制改革という使命を通じ、自ら政治の道に進むことを志したからではないかと思っている。国や自治体が行う規制について、憲法で『営業の自由』が保障されている以上、これを阻害する『規制』には法的な根拠が必要となる。また、法律の最終解釈権は行政ではなく最高裁にあるため、行政の通達について解釈が間違っている場合には裁判で決着をつけることが可能である。また通達だけでなく、行政手続法が2006年に施行されてからは行政指導にも法的根拠が必要となった。それゆえ、国や自治体から『指導』があれば、法的根拠を確認することができる。さらに、日本では欧米に比べ不必要なまでに強制力が強い規制も多い。例えば医療行為は医師法によって医師しかできないが、医療行為に関する定義がなく、厚労省の定義がそのまま医療行為となってしまう現状がある。これらの古い規制、特に経済関係の規制についてはサンセット方式を導入し、一定の期間が経過した規制は破棄して見直さなければ、時代の変化についていけないと考えている。先述した特区について、全国で500以上の特区ができた。農業分野への株式会社への参入も最初は特区でやり、現在は全国に展開されている。最後に、元内閣官房長官故後藤田正晴氏が官僚に対し仰った、後藤田五訓を紹介したい。『一.出身がどの省庁であれ、省益を忘れ、国益を想え。二.悪い本当の事実を報告せよ。三.勇気を以って意見具申せよ。四.自分の仕事でないと言うなかれ。五.決定が下ったら従い、命令は実行せよ。』私は官僚の際はこの五訓を心に入れながら仕事をしていた。」と、経産省のご経験から規制に関する貴重なお話ししていただきました。
一般社団法人空の架け橋代表理事、株式会社HighRate代表取締役 前川宗様
一般社団法人空の架け橋代表理事、株式会社HighRate代表取締役の前川宗様は、「2019年まで航空自衛隊に約20年間在籍し、元谷塾長も搭乗されたF‐15に約2,000時間搭乗していた。そうした経験を踏まえ、自衛隊の現場、そして日本の空でどういったことが起きているのかを皆さんに知っていただきたいと思っている。まず、航空自衛隊は今年で発足70周年を迎え、日本の防空を担っている。任務の一つとして、他国の飛行機が日本の領空に近づき、日本の国有財産や国民に危害を及ぼす危険性が生じた際、航空自衛隊がスクランブル発進を行って警告し、なお領空侵犯した場合には強制着陸をさせる、といったものがある。スクランブル発進は1958年に初めて実施して以降、80年代にピークを迎え、冷戦期は84年の944回が最多となっている。当時はソ連機に対する日本海や北海での活動が主であった。その後、2010年頃から中国機に対する東シナ海での活動が増え、16年には最多の1,168回となった。これは平均1日3回のスクランブル発進があることになる。経路を見ると、ロシアのルートがあまり変わらないのに対し、中国は近年、沖縄・宮古島の間を通過して太平洋まで進出するようになり、情報収集機や爆撃機だけではなく、戦闘機や無人機までもが通過するようになっている。では、日本がどれだけ領空侵犯をされているかというと、今年も中国のY‐9(情報収集機)、ロシアのIL‐38(哨戒機)による2件の侵犯があり、公表事例全体では48件ある。有名なものでは1976年、ソ連のベレンコ中尉亡命事件があるが、これは戦闘機が極端な高度での飛行を行い、当時のレーダー技術によって捕捉できず函館空港への着陸を許した事例である。また、1987年には沖縄上空でソ連の爆撃機が飛来し、F‐4戦闘機が初めて警告射撃を行い、それが日本領土に着地した事例もある。領空の広さについてであるが、海岸線から12マイル(約22km)が領空となる。すると、マッハ1の戦闘機なら1分で行ける距離となる。このような脅威に対し航空自衛隊が日夜奮闘していることをご認識いただきたい。最後に日本と中国、そして米国の保有戦力についてであるが、総兵力、戦闘機保有数、防衛費いずれも日本は米中を大きく下回っている。そうした限りある予算・人員の中で、欧米主要国との共同訓練を実施し、日英伊三国で戦闘機共同開発を2035年配備に向け進めている。最後になるが先月、『元イーグルドライバーが語るF‐15戦闘機操縦席のリアル』という本を出版した。機会があればぜひご覧いただきたい。」と日本の防空に関する現状をお話いただきました。
慶應義塾大学名誉教授・公益財団法人アパ日本再興財団理事 塩澤修平様
慶應義塾大学名誉教授・公益財団法人アパ日本再興財団理事の塩澤修平様は、「台湾有事、朝鮮有事が同時に起こる可能性のある厳しい状況の中で、航空自衛隊の今後の在り方について何が焦点となるとお考えになるか。」と質問され、前川様は「航空自衛隊の現場で働いた人間の意見としては、一番は人的基盤だと思っている。自衛官になりたい学生から相談を受けることがあるが、学校教育の中で国防に関する心構えや覚悟についての教育が十分ではないと感じる。国防のいざという場面では、令和的なハラスメントという感覚を劣後させないといけない時がある。そのため時に厳しい訓練を課すわけだが、それに耐えられない若者が多いのが現状である。陸海空で25万人程度の定員に対し、充足率で90%を切ろうかとしている現状において、人的基盤を整えることが重要であると考えている。」と答えられました。
在日本ルーマニア商工会議所会頭 酒生文弥様
参議院議員 石井苗子様
在日本ルーマニア商工会議所会頭の酒生文弥様は、「トランプ大統領は以前からプーチンと親交も深く、ロシアや北朝鮮に対しては和平的な一方で、中国に対しては強硬な姿勢を崩さないように思える。一方で報道では石破首相とトランプ大統領は関係が希薄なようだが、この日米首脳のズレについてはどうお考えか。」と質問され、参議院議員の石井苗子様は、「石破首相とトランプ大統領は電話会談も短時間であり、また趣味も異なる。過去に当時のプーチン大統領、安倍首相、トランプ大統領が談笑している動画があったかと思うが、石破首相があのような輪に入るには時間がかかると思われる。また、その動画からも分かる通り、トランプ大統領はロシアに対しては友好的である。」と答えられました。
最後に塾長は、「バランス・オブ・パワー、すなわち力の均衡を保つことが、日本が平和であるために最も必要なことであるが、それを理解せずに、平和を念じていれば平和になると誤解している人が多い。この勝兵塾を通じて本当はどうなのかを知る機会としてほしい。また、12月6日には明治記念館にて、第七回アパ日本再興大賞ならびに第十七回『真の近現代史観』懸賞論文受賞記念パーティーを開催するので、ぜひご参加いただきたい。」と話し、会を締め括りました。