第129回 勝兵塾月例会レポート
公開日:2022/3/28
塾長・最高顧問 元谷 外志雄
勝兵塾第129回月例会が、3月17日にアパグループ東京本社で開催されました。
冒頭のアパグループの元谷外志雄代表による塾長挨拶では、「今回は第129回目の月例会となり、回を追う毎に参加者も増えてきた。今回も内容のある月例会になると期待している。歴史や国際情勢など、様々なことを知る機会として、この勝兵塾は意義のあるものだと思っている。様々な分野の講師の方々にご登壇頂き、それらのお話を聴いて、意見を出しながら、真実を見出して欲しい。弱肉強食の世界に日本はいるということを理解し、その中でどうあるべきかを考えてもらいたい。」と述べました。
衆議院議員 今枝宗一郎様
衆議院議員の今枝宗一郎様は、「ウクライナの問題について地元の方々とも話をするが、遠いロシアの西の端で起きていることという認識で、まだまだ意識が不十分な気がする。しかし、ロシアの東の端には我が国の北方領土があり、極東地域がある。我々は中国や北朝鮮だけでなく、ロシアのリスクに対しても、しっかりと目を覚まして対応していかなければならない。また、力による現状変更が起きたときに、世界がどのように対応していくのかが、中国へのメッセージに直結することを肝に銘じて、対応していかなければならない。私は2012年に28歳で国会議員に当選させて頂いたが、きっかけは、15歳のときに人口減少や社会保障の問題について考えるようになったことである。私は大きな病気をして入退院を繰り返していたが、当時通っていた病院から小児科の先生がいなくなってしまい、医療崩壊を被害者として経験した。なぜそのようなことが起こったかを調べていくと、構造改革による無駄の排除で、地方の医療が切り捨てられたことがわかった。そこで、構造改革という言葉に騙されず、本当の意味であるべき政治を目指さなければならないと感じた。さらに、政治家になる上で現場のことがわからなければ何もできないと考え、まず医師として働いた。私は医師でもあるので、医療分野でのコロナ対策にも務めているが、党本部で賃上げ問題にも取り組んでいる。分配と成長の好循環を目指しているが、分配するには原資が必要なので、成長戦略、新産業戦略に携わっている。2000年代から規制緩和が成長戦略だとずっと言われてきた。しかし、規制緩和をしても既存のプレーヤーから新しいプレーヤーに富が移転するだけで、パイ全体を増やすことに繋がってこなかった。2010年代も同様に成長戦略が語られてきた結果、失われた20年、30年が続いた。新しい資本主義で進めようとしているのは、成長分野を国が見定め、投資も十分にして政府としてコミットメントしていくことで、その分野のスタートアップ企業と大手企業が一体となって成長していこうというものである。したがって、決して分配一辺倒ではないことをご理解頂きたい。コロナ対策について、今回のオミクロンは、今までとは全く別のウイルスであるという認識からスタートしなければならない。感染力は1・7倍くらいと強いが、重症化率が従来の数分の一から十分の一程度である。新型コロナの医療分野の対策本部では、その時々の状況に応じて、重症度に合わせて適切な社会経済活動の制限をお願いしながら、あらゆる政策手段を使って医療のテコ入れをし、できるだけ社会経済活動を動かす工夫をしていこうと提言してきた。今回のオミクロンにおいては、濃厚接触者の待機期間の短縮に取り組んだ。これまで濃厚接触者を2週間隔離しなければならなかったが、オミクロンについて研究していくと、もっと短くても大丈夫だということがわかり、最新の研究では2・6日だとわかった。そのため、今は濃厚接触者に隔離協力を求めるのをやめていこうとしている。また、新型コロナを感染症法上の5類にすべきだという意見もあるが、これについてもしっかり議論を重ねており、今でも5類相当になってきている。つまり、感染者の全員が入院するのではなく、入院基準を厳しくして、多くの感染者を宿泊療養や自宅療養にしている。現場の声を聞きながら制度の問題を一つ一つ解決しているチームが党内にあることを知って頂き、またご意見も頂きたい。」と、賃上げとコロナ対策への取り組みについて語られました。
第四回アパ日本再興大賞受賞者でジャーナリスト 葛城奈海様
第四回アパ日本再興大賞受賞者でジャーナリストの葛城奈海様は、「『Apple Town』の3月号で元谷代表と対談をさせて頂いて、意外な共通点があることがわかった。それは狩猟である。元谷代表はクレー射撃から狩猟の世界に入られたそうである。私の場合は、2010年くらいから林業を応援する仕事をさせて頂いて、全国の林業に関わる方々に、毎月のように取材をしてきた。その中で徐々に大きくなってきたのが鹿の害の声である。せっかく苗木を植えても鹿がそれを食べ、成長した木の皮を鹿が剥いで売り物にならなくなる。8年間程林政審議委員を務め、国に政策を提言してきたが、ある時期から、口だけで言っている場合ではなく、ハンターになって鹿の害を減らすことに貢献したいと思い、狩猟免許を取った。鹿が増えた背景には、まず天敵であるニホンオオカミが1905年に絶滅してしまったことがある。また、ハンターが減少し、高齢化が進んだことや、降雪量が減少して、冬を越せる個体が増えたこと、人間の生活が里山からどんどん離れて里山が荒廃したことがある。さらに、戦後雌鹿の狩猟を禁止した時期があったために益々鹿が増えてしまった。鹿の絶対数はこの四半世紀で約十倍に増え、ハンターは約三分の一になった。こうなると、鹿が草を食べて山の下草が減少・消失し、土砂流出・崩落してしまう。山の水源林の機能が低下して、土砂災害の原因の一つになっている。また、林業の方々は植えた木を守るため、対策に必要なコストと労力が増し、林業に対するモチベーションの低下につながっている。国も危機感を持つようになり、10年程前に、2023年までに鹿の個体数を2011年比で半減させると決めたが、なかなか進んでいない。狩猟者になるのは簡単ではない。狩猟免許には網、罠、第一種猟銃、第二種猟銃の四種類があり、私も取得した第一種猟銃は散弾銃を撃てる免許である。猟銃の免許は、狩猟免許に加えて警察から猟銃所持許可をもらわなければならない。学科試験、実技試験があるが、加えて警察が人物について聞き込みをし、自宅に来て、銃を保管するロッカーと弾を保管するロッカーとを分けて、壁などに固定されているかを調べる。さらに、猟をする場所毎に都道府県知事に狩猟者登録をしなければならない。狩猟者の数はまだまだ足りないので、多くの方々に仲間になって頂きたい。狩猟を始めてショックだったのが、殺された鹿のほとんどが埋められたり、焼却されたりしていたことである。衛生環境の整った設備で解体しないと、危なくて流通に乗せられないからである。命を頂いておきながら食べもしないことにはとても抵抗感がある。これを何とか変えていきたいと思っている。鹿肉は臭いと思っている方も多いと思うが、しっかり血抜き、ドリップ抜きした鹿肉は臭くなく、人工飼料や薬剤を一切使われずに育った100%天然素材で、高タンパク、低カロリー、鉄分豊富で、女性にもお勧めである。とにかく美味しいので皆さんにも味わってもらいたい。ほとんどの日本人がこうした実情を知らないと思う。生態系を守り、国土を保全するためにも、鹿の命を頂かなければならないのも冷厳な事実である。命を頂いたからには、感謝して美味しく頂く文化を、もう一度思い起こしたい。」と、鹿害の深刻さと取り組みについて、ご自身の体験を交えて話されました。
元高知工科大学客員教授・元通産省 神田淳様
元高知工科大学客員教授・元通産省の神田淳様は、「日本には美の倫理が存在している。美の倫理とは、それが道徳的に良いことか悪いことかを、美しいことか汚いことかで判断する倫理感覚のことを言う。日本の親はよく子供に悪いことを教えるのに、『汚いこと』をするなと教える。あるいはあの男は『汚いやつだ』という言い方がある。この場合、男の身なりが汚いということではなく、人格が汚いと言っている。『手を汚す』という表現もある。これは悪事に手を染めることを意味している。このように日本では悪いことを汚いことと言ってきた。逆に日本では美しいことが道徳的に良いことである。清らかなこと、清潔なこと、純粋なこと、けじめがあること、誠実なことは美しいことであり、良いことである。このことを日本のユニークな倫理のあり方で外国に見られないという外国人がいるが、私はそうは思わない。外国では宗教の発達が著しく、倫理道徳の根底には宗教があるため、美意識による倫理判断があまり表に出ていないのだろうと思う。日本の場合、伝統宗教は神道であり、この神道が、美しさ、特に清浄の美しさを尊ぶ宗教である。神道が理想とする人間の在り方は、『清明正直』である。清く、明るく、正しく、直きこと、まさに美しい人間の在り方であるが、この中でまず清いことが挙げられている。神道は清浄を信仰する宗教だと言って良い。逆に神道は汚いことを穢れといって忌み嫌う。穢れを取り払い、心身共に清浄になっていくことが神道の理想である。我々日本人は神道の信者だという意識はほとんどないが、生活感覚、生活慣習の中に神道が横たわっている。日本人の清潔好き、風呂好き、よく掃除をすることは世界的にもよく知られている。オフィスや工場に3Sを掲げて推進する。この3Sとは整理、整頓、清掃である。神道は清浄の精神を尊ぶ宗教である。それが日本の倫理道徳の根底にある。日本の倫理道徳の根底にあるもう一つのものが武士道である。12世紀から19世紀の終わり頃までの、武士階級が支配する時代に形成された倫理道徳が武士道であり、その根底にあるのが武士の美意識、武士の美学である。武士は名誉を重んじ、恥ずかしいことは絶対にしない、嘘は絶対につかない、戦場で勇猛果敢に戦う、約諾は絶対に守る、言い訳はしない、言葉を飾らない、こうしたものが武士道の基本的な倫理であるが、まさに武士の美学である。武士階級は150年前になくなったが、日本人の感覚の中に武士道的感覚はまだ残っていると思う。外国人が日本人の美の倫理を特殊と言うが、私は逆にこの美の倫理が普遍的な倫理の在り方だと思っている。そう思う理由として、真善美は一つのものだという深遠な哲学的見解がある。古来価値あるものとして挙げられるのが、真善美である。そして、真理は美しく、美しいものが真理であるということを、著名な科学者、数学者が皆言っている。また善と美について、善は美であり、美が善であるということを、プラトンやトマス・アクィナスをはじめ、古来多くの著名な哲学者が言っている。日本社会の素晴らしいところは、美しいことが善であるという美の倫理が難しい哲学ではなく、日常の卑近な伝統的倫理として存在していることである。美の倫理が日本に昔から存在しているために、日本は良い社会を形成してきた。犯罪は少なく、平和であり、人は誠実に生きようとする。この美の倫理が、世界の中の日本の存立基盤であると思っている。」と、日本の美の倫理とその普遍性について説かれました。
東京国際大学学長・慶應義塾大学名誉教授 塩澤修平様
東京国際大学学長・慶應義塾大学名誉教授の塩澤修平様は、「私も伊豆半島の自治体の首長から鹿の害について話を聞いたことがあるが、一方で東京を中心にジビエの需要がある。そこで鹿の利用をビジネスとして進めていくためには何からやっていけば良いと考えるか?」と質問され、葛城様は、「真っ先に必要なのは、衛生環境の整った処理施設を小規模で良いので各地にたくさん造っていくことだと思う。長野県は熱心に取り組んでいて、長野トヨタが協力してくれて、ジビエカーというものを造った。トラックで造って森の現場の近くまで持って行って、現場の近くで鹿を解体できるようにした。大きいと山の奥まで行けないので、今度は軽自動車で小さいものを造った。しかし、なかなか全国に普及するまでに至っていない。車でも小屋でも良いので、身近な場所にハンターが解体できる場所を造っていくことが肝要だと思っている。」と答えられました。
一般社団法人シベリア抑留解明の会理事長 近藤建様
一般社団法人シベリア抑留解明の会理事長の近藤建様は、「日本の美の倫理についてお話を伺ったが、今の子供の教育で、本当に真善美を厳しく教えることができるのか疑問である。厳しくしようとするとすぐに子どもの権利だとか言われるような中で、どのようにすれば立派な日本人を育てることができるとお考えか?」と質問され、神田様は、「日本の美の倫理は、子供の頃に自分達が親から教えられてきたことを思い起こして、本当に大切なことだと確信して教えていく必要がある。戦後教育の中で、伝統的な倫理・道徳が否定される傾向があったが、伝統の中から大人が自覚をもって教えていく必要がある。私は団塊の世代よりももっと若い世代の方が日本の伝統的な価値観を求める傾向が出ていると感じている。」と答えられました。
敬愛大学経済学部経営学科教授 藪内正樹様
敬愛大学経済学部経営学科教授の藪内正樹様は、「ウクライナとロシアの関係の歴史について話したい。スラブ人は元々穏やかで素朴な民族で、奴隷(Slave)の語源になったくらいである。国家の成立は9世紀で、ゲルマン民族のヴァリャーグ(ヴァイキング)が東スラブに公国(都市国家)を建て、そのいくつかが連合してキエフ大公国を建国した。ヴァイキングは東スラブの地で毛皮や蜂蜜、奴隷などを調達して、ドニエプル川から黒海を通じて東ローマ帝国に売りに行っていた。素朴なスラブ人が変わったのがモンゴル帝国時代である。ロシアでは『タタールのくびき』と呼ばれている。1240年にモンゴル欧州遠征軍によりキエフ大公国が滅亡し、東スラブはモスクワが中心となり、モンゴル帝国を構成する4つの遊牧国家(ウルス)の一つ、ジョチ・ウルス(タタール)に支配された。東欧から東アジアにまたがる大帝国ができたことで統一市場ができ、商業が大発展した。モンゴル人は遊牧民族なので、土地を奪わず、年貢と軍役を課し、宗教に対しては無関心だった。さらに、イスラム商人を保護し、出資をして、交易による利益から配当を取った。モンゴルは先鋒、本隊、近衛兵、輜重隊、軍法、情報伝達網を備えた人類初の近代的軍事組織を創った。また、徴税のために支配地域に戸籍制度を導入させた。戸籍制度は遊牧民の知恵ではなく、元の支配を通じて学んだものだ。スラブ人は、近代的軍隊や戸籍制度による統治システムをここで学んだ。ウクライナや南ロシアでは、遊牧民の一部がロシア正教に改宗し、没落貴族や脱走した兵士や農奴が集まって、騎馬武装集団共同体(コサック)ができた。ポスト『くびき』時代には、モスクワ大公国はロシア・ツァーリ国からロシア帝国となり、コサックは傭兵となってロシアの治安維持や国境警備に従事した。モンゴル帝国は均等相続で分散、分裂して滅びたので、ロシア帝国は東方へ拡大していった。そこでコサックが屯田兵となった。ソ連ができたときに、旧勢力の傭兵として活躍していたコサックは徹底的に弾圧された。その一環として、ホロドモールと呼ばれる飢饉が1932~1933年に発生した際に、スターリンが輸出用穀物の供出を命じて、ウクライナだけでなくコサックが居た地域全般で大量の餓死者が発生した。そのため第二次世界大戦でナチスドイツが攻めてきたとき、コサックの残党はナチスを解放軍だと思って共にソ連共産党と戦った。そのため危険視され、旧ソ連の体制を復活させようとしているプーチンにとっても危険分子となった。彼らはネオナチと呼ばれている。自民族優先主義としてナチズムから様々な要素を取り入れているが、ユダヤ人迫害を目的としているわけではない。このように、モスクワとキエフの対立には長い歴史的な背景がある。侵略された民族(共同体)が個を犠牲にして集団を守る自衛戦争は肯定されるべきである。しかし、自衛戦争と侵略戦争は区別しなければならない。侵略戦争をやるのは専制政治や金融資本、石油資本、軍産複合体であり、様々なプロパガンダや煽動で大衆を犠牲にして、権力の維持や利益の追求を画策している。これこそ警戒すべきことである。しかし、防衛戦争が憎しみと報復の連鎖にならないように、どこかで克服することが必要である。これをベトナム戦争の時に禅宗の僧侶のティク・ナット・ハンが人類の真の敵は、怒り、憎しみ、貪り、狂信、差別心であり、これを乗り越えなければならないと呼びかけてキング牧師に強い影響を与え、キング牧師はベトナム戦争に反対した。」と、ウクライナとロシアの関係の歴史を解説されました。
自民党政務調査会前審議役 田村重信様
自民党政務調査会前審議役の田村重信様は、「侵略戦争ということから考えて、ロシア、アメリカ、中国をどのように分析すればよいか?」と質問され、藪内様は、「プーチンは過去のソ連の頃の体制を取り戻そうと考えている。『ブタペスト覚書』が蔑ろにされてきた面があり、西側からのロシアへの締め付けに対する防衛という面もある。権力、利益のために誰かを陥れることをお互いにやっている。中華文明の本質は、文化と経済の高みをつくって治安を維持すれば、周辺の様々な民族が集まって交易をするというものであるが、今の中国は文化の高みをつくれない。今の中国がやっていることは、大ロシア主義や金融資本、軍産複合体がやっていることと変わらず、人類の幸福に繋がるものではない。アメリカは共和党と民主党の深刻な対立がある。マルクシズムがポリティカル・コレクトネスやキャンセル・カルチャーなどと看板を変えて、浸食し、分裂の危機にある。」と答えられました。
参議院議員 石井苗子様
参議院議員の石井苗子様は、「今国会はウクライナ一色であるが、絶対悪というものはなく、全ての外交は自国の価値観に基づいて行われており、歴史を振り返れば、皆自国が正しいということになる。今、『ロシアに経済制裁を』とよく言われるが、私はエネルギーや食糧をどうするのかと、すぐ考えてしまう。こう言うと平和を守らないのかと炎上するが、私は国民の皆様の命を守るのが第一ではないかと思う。その時に優先順位をつけてどのように守っていくのかを考えるのが国会議員だと考える。エネルギーがどれくらいあれば十分なのかと国会で質問しても誰も答えられない。十分かどうかはウクライナの状況がどうなるかにかかっているが、『終結することを祈ります』では困る。安定したエネルギー供給をどのようにするか、国民の皆様の命を守ることを第一に考えていく。」と発言されました。
最後に塾長は、「本日も素晴らしい講師の方々にご講演頂き、また示唆に富んだ質問もあって、大変良かったと思う。」と述べて会を締め括りました。今回は講演された講師特待生の方々以外にも、衆議院議員の櫻田義孝様をはじめ、多数の講師特待生の方々にもご出席頂きました。