第121回 勝兵塾月例会レポート
公開日:2021/07/28
塾長・最高顧問 元谷 外志雄
勝兵塾第121回月例会が、7月15日にアパグループ東京本社で開催されました。
冒頭のアパグループの元谷外志雄代表による塾長挨拶では、「今月号のアップルタウンのエッセイの原稿をお配りしているが、タイトルは『アメリカにとって中国は「望ましい敵」だ』である。冒頭に書いたように、アメリカの歴史は戦争の歴史である。独立戦争以来、ずっと戦争をし続けてきた。日本もそのことをよく理解した上で国の在り様を考えていかなければならない。アメリカに依拠していれば安全で大丈夫だと思っていても、それは叶わぬ夢であり、自分の国は自分の手で守ることが肝要である。その上で友軍としてアメリカが、日米安保条約に基づく協力をすれば、それはそれでよいが、まずは自分の手で国を守る体制を作り、心構えを持つことが必要だと常々思っている。エッセイも今月で第348号となり、多くの方に読んで頂けたら幸いである。」と、安全保障をアメリカに依拠することに対して警鐘を鳴らしました。
続いて、6月2日に開催されたアパグループ50周年記念パーティーの中で行われた、外交評論家の加瀬英明様による勝兵塾10周年記念特別講演「立て! 日本!」を動画で視聴しました。なお講演内容については、『Apple Town』2021年8月号をご参照ください。
学校法人日本航空学園理事長 梅沢重雄様
学校法人日本航空学園理事長の梅沢重雄様は、「学校法人日本航空学園は来年建学90周年を迎える。祖父が開校して、戦前は官立乗員養成所としてパイロットの養成や、航空機関学校として航空整備士の養成を行ってきた。当時は日本全国、台湾、韓国から学生が来ていたが、卒業生の多くは戦地で航空兵として戦没した。私の祖父は何とか戦後の航空の自主独立を夢見て学校を再開し、日本航空高等学校としてスタートした。石川と山梨にある高校は甲子園出場校であり、今年は両校とも優勝候補である。石川には大学、高校で1、300名、山梨には750名、北海道にも750名の生徒がいて、寮では感染対策を行ってきたが、石川と山梨では、外出した生徒からクラスターが発生してしまった。本音を言えば、20代以下の死者は一人も出ておらず、我々年寄りに感染しないようにさえすれば問題ないと思う。陽性になった生徒はホテルで10日間隔離されるが、薬も点滴もなく、ただ部屋に閉じ込められて過ごすだけである。感染した生徒のほとんどは無症状で、一部で少し熱が出るくらいだが、それも一日で治る。だから感染しても通常通りやればいいと思う。しかし、行政、保健所の指導は県により違い責任を逃れる為にオーバーであり、メディアが必要以上に騒いでいる。生徒は皆元気であり、コロナを恐れる必要はないのだが、規則がありやむを得ずインターハイの県予選出場を辞退した。元谷代表は、サービス産業をやりながら、日本の自主独立の精神を堂々と主張している。私の知り合いの中国人は皆アパホテルが好きで泊っている。ビジネスと国の主張は別である。国力は、『軍事力×精神力×経済力』で決まる。掛け算なので、どれか1つでゼロになれば国力はゼロになってしまう。精神力をしっかり教えるのが我々教育者の立場だと思っている。本校ではパイロットの訓練のために約30名がアメリカに行っている。航空管制用語はほとんど英語なので、アメリカでパイロットの訓練をするが、日本人がアメリカでライセンスを取得しても、日本に戻ってきたらまた訓練をして日本のライセンスを取り直さなければならない。しかし、アメリカ人がアメリカのライセンスで成田に着陸して、客を降ろしてそこから大阪に飛んでも、それはアメリカのライセンスで良い。パイロットのライセンスは世界共通でなければならない。さらに、三菱はMRJという立派な飛行機を造ったが、結局許可を取れずにボツになった。一方ホンダジェットは、アメリカに現地法人を作ったことで、世界中で売れている。なぜ政府は日本の航空産業をしっかり育てようとしないのか。いつまでたっても戦後体制が続いている。アメリカに遠慮しているために、ありとあらゆる産業が伸びない。しかも、メディアばかり気にして遠慮ばかりしている。」と、コロナへの対応の問題点と、日本の航空業界の課題について語られました。
衆議院議員 宮澤博行様
衆議院議員の宮澤博行様は、「尖閣諸島の問題について、中国の海警法という法律があるが、この法律では管轄区域を設けて、その区域内では中国外の公船であっても武器使用ができると定められており、しかも管轄区域について具体的に定められているため、中国共産党の自由な解釈に委ねられている。これは国際法違反である。また、中国は明らかに尖閣諸島を取りに来ている。白い船(海上警察)、さらに青い船(漁船)で取りに来て、灰色の船(海軍)が後ろにいる。これに対して自民党の中のタカ派が、今の法制度のままでは尖閣を守れないと騒ぎ出した。『向こうは白い船、灰色の船、青い船と組織的に攻めてきているが、我々は警察力で守ろうとしている。それでは不十分だから、領海警備においては海上自衛隊が海上保安庁と共に海を守れるように法改正すべきだ。』という主張である。私はこれに対して反対した。なぜなら、日本は法の支配、国際法、国連海洋法条約に基づいて世界の秩序を守っていこうという方針を持っている。さらに海上警察について、そのノウハウ、領海警備や救難、国際法の知識を世界に伝える海上警察のサミットを何度も主催してきた。法の支配や警察力による国防を推進してきた日本が、なぜ自衛隊を出さなければならないのかと思う。急進派の主張は海上保安庁法を改正しろということで、その中には二つのターゲットがあった。一つは武器使用の範囲を広げることであり、もう一つは海上保安庁を軍隊にすることである。私はこれに大反対をした。私の論理は、海上保安庁とも自衛隊とも一致していたが、日本の理想である法による支配をまずは徹底するということである。さらに、海上保安庁法第20条には、国連海洋法条約第19条を引用して、無害通航でない者に対して武器使用ができると書いてある。したがって、尖閣諸島を取りに来る相手の海警に対しては武器使用ができるのである。海上保安庁は警察であり、警察の発砲には威嚇射撃と危害射撃があるが、最初の威嚇射撃は空中に向かって撃つ、二番目は水面に向かって撃つ、そして三番目は相手の船のエンジンルームを射抜くことになる。『海上でエンジンルームを射抜くことが本当にできるのか?』と聞いたら、海上保安庁はできると自信満々だった。これを海上自衛隊がやったら戦争になる。警察だから相手の船を撃っても大丈夫なのだ。だから海上保安庁の力によって海を守り抜くことが大事である。急進派は防衛出動を決断できないから予め海上自衛隊を出しておくと言っている。しかし、そうすると日本が先に戦争を仕掛けたことにされてしまう。赤十字国際委員会における便衣兵の定義によれば、海軍指揮下にある商船は海軍と見なしてよいとなっている。国際法は日々変わっており、商船だけでなく漁船であっても海軍の指揮下にあるものは海軍と見なす、と日本が今から主張して準備しておけばよい。中国が組織的に攻めて来た場合には、これは防衛出動だと言えるように準備し、自衛隊が堂々と防衛出動できる環境を整えるのが政治家の仕事である。」と、尖閣諸島の問題について持論を展開されました。
勝兵塾 諸橋茂一事務局長
勝兵塾の諸橋茂一事務局長は、「これまで中国の公船や漁船が日本の排他的経済水域や領海に不法に侵入を繰り返してきている。今の話だと海上保安庁で銃撃を含めて十分な対応ができるということだが、なぜ海上保安庁は、パラオやアルゼンチンのように警告に従わない船を銃撃しないのか?」と質問され、宮澤様は、「領土の保全が明らかに侵されている場合に武器が使用できるのであって、領海侵犯は押し出すことができる。そういう状態で武器を使用すれば、逆にこちらから仕掛けてきたという口実を与えることになる。海上保安庁は数でも装備でも上回っているので、常に押し返すことが重要である。武器を使用せず押し出すことも国家のやり方であると考えている。」と答えられました。
議員立法支援センター代表 宮崎貞行様
議員立法支援センター代表の宮崎貞行様は、「自民党は1955年に結成されたが、その時は日本国憲法と戦後民主主義を『日本の弱体化の一因』だとはっきり指摘していた。ところが現在使命達成の情熱は薄れ、利権確保と延命のみを志向しているように思われる。そこで自民党の抱えている重大な矛盾を七不思議としてまとめてみた。一つ目は、連立の相手に基盤を侵食されても喜んでいることである。憲法改正や土地規制などで自民党が公明党に必要以上の譲歩をしている。国交大臣のポストを公明党に与えたために、地方の建設業者は創価学会に入り利権に与ろうとしている。これまで自民党の選挙活動を支えてきた建設業界をみすみす手放して喜んでいる。二つ目は、民主採決を堂々と行わない優柔不断である。自民党は衆参両院の過半数を握っているのだから、法案の採決に当たっては、堂々と多数決に持ち込めばよいのに、遠慮している。また、党内の部会、政調会、総務会も全員一致を旨としているため、新規の議員立法や国会決議が進まないことに国民は苛立ちを覚えている。三つ目は、結党の精神である『自主独立自尊』を忘れたことである。未だに米軍は横田などの要所に駐留し、首都上空などで航空管制権を握っている。さらに自衛隊は、米軍の情報と指揮の下で機能するよう設計されている。小麦や大豆、飼料も米軍の戦略に乗せられて、米国に依存し、食料の自給率は年々低下している。日本は米国の属国として、与えられた範囲で、限定的な自由を謳歌しているに過ぎない。四つ目は、現行憲法を護持していることである。現行憲法の改正要件は世界一厳しいが、これは勝手に改正できないように占領軍が厳重な枠を嵌めたためである。しかも現行憲法は、個人主義に立つ『自由主義と民主制』という米国神話に立脚しており、我が国の伝統的価値観にそぐわない。個人よりも共同体の発展を重視する調和と礼節の精神を盛り込んだ新国民憲法を制定すべきである。現占領憲法は元々無効であり、占領が終わった昭和27年に吉田内閣が廃棄を宣言すれば良かったが、今からでも内閣が無効を宣言する余地があるのではないか。五つ目は、自民党に経理局はあるが、立法局がないことである。自民党には資金の管理を行う経理局はあるが、立法の起案、推進を図る立法局がない。政党の任務は議員立法や国会決議により政策を実現することであるが、議員は多忙であり、補佐する組織が必要である。立法事務費を立法のために活用すべきではないか。六つ目は、新人議員の訓練、研修が行われないことである。新人議員のスキャンダルが報じられるが、国家戦略論や党の歴史、結党の精神、弁論術、交渉術などを叩き込む研修期間を設けなければならない。また、世襲議員は別の選挙区から出馬させるなど新陳代謝を図る必要がある。七つ目は、若い保守世代の組織化を図らない不思議である。公明党や共産党は若い世代を教育する大学などの教育組織を持っているので、後継者の再生産が可能だが、自民党には保守理念や伝統的な価値観を若い世代に伝える教育機関がない。党が主体となって、保守学生連盟や青年保守同盟などを組織化して、将来の自民党を担う人材を養成する必要がある。」と、自民党の問題点を指摘されました。
東京国際大学学長・慶應義塾大学名誉教授 塩澤修平様
東京国際大学学長・慶應義塾大学名誉教授の塩澤修平様は、「アメリカの戦略に乗せられて食料の自給率が低下したとあったが、一方で日本経済は自由貿易体制の中で恩恵を受けてきたという面もある。そこで、食料に関してどういった基本方針で臨んでいくべきか?」「零細な農家を守ってきたために、農業の大規模化が進まず、競争力がない。この点で今の政策にはかなり問題があると思うが、この点をどう考えるか?」と質問され、宮崎様は、「日本のように人口が多い国は、食料不足に陥ると海外からの調達が難しい。異常気象による食料不足が懸念されているが、ニクソンがかつて大豆の対日輸出を禁止したように、いつかそのような日が来るかもしれない。自由貿易は良いが、食料だけは別で、食料自給率を上げると共に、半年くらいは持ち堪えられるだけの備蓄が必要ではないか。」「日本の場合、活路を植物工場に求めるべきではないかと思う。日本の工業力を使って植物工場を自由化するように法制度を変えていくべきである。」と答えられました。
自民党政務調査会前審議役 田村重信様
自民党政務調査会前審議役の田村重信様は、「昨年4月まで自民党本部で国防、外交、憲法についてずっと取り組んできたが、元気がいい話だけではだめで、今日の宮澤先生の話は全くその通りだと思う。また、先ほど時間切れで話されなかった点についてお話し頂きたい。」とコメントをされ、宮澤様は、「対中国に関して、尖閣に続く二番目の問題は、中国の海洋進出に対して危機感を持っている国々との連携強化である。具体的にはフィリピンとベトナムであるが、自衛隊はこれらの国々と防衛協力あるいは能力構築というかたちで親密な関係を築いている。これをどのようにして準同盟にまで高めていくかが課題である。また日本とフィリピンの間には台湾があり、いかに台湾を国と認めて防衛協力をしていき、日本が要となって中国の海洋進出を抑えていくかである。三つ目の問題は、中国国内の人権問題である。南モンゴル、ウイグル、チベット、香港の人権、言論が弾圧されているが、これらの少数民族の命を守る人権外交によって、海だけでなく陸に中国政府のエネルギーを向けさせることも国家戦略として大事だと思う。人権問題は安全保障に繋がっていくと考えている。」と、対中問題について補足されました。
梅沢様は、「元気がいいだけではだめだという話があったが、諸橋さんは世界の常識の話をしていると思う。領海、領土を警察が守っている国は他にあるのか?」と質問され、宮澤様は、「常日頃起こっていることと、明らかに組織的に攻めてくるときのことを分けて考えた方が良い。常日頃世界の海を守っているのは海上警察である。ただ、海上警察は先進国においては海軍隷下にあり、途上国においては軍隊とは別組織にある。いずれにしても領海警備をやっているのは海上警察という組織であることが多い。だからこそ、明らかに尖閣を取りに来たと認定する基準を今から準備しておき、その時になったら防衛出動を決断するべきだと考えている。」と答えられました。
衆議院議員 上野宏史様
衆議院議員の上野宏史様は、「南モンゴルについて、宮澤先生に触れて頂いたが、昨年11月に南モンゴル母語保護国際会議を開いた。そのときに宮澤先生にもご参加頂き、この活動を議員連盟にしていくべきだとお話を頂いた。そこで、今年3月に勉強会をやり、4月に議員連盟を立ち上げた。多くのモンゴル人の方々からも強い要請があった。中国の人権問題に対する非難決議を決議するべく党内で動いていたが、後から他党からミャンマーに対しても行うべきだという話があり、対中非難決議を最後の最後で決議ができなかったことは事実であり、ミャンマーに対する決議が先行したことで、中国に対して逆のメッセージを与えることになっているという声もある。秋に臨時国会があるので、速やかに対中非難決議をやっていく。」と南モンゴル問題への取り組みについてメントをされました。
産経新聞編集委員、國學院大學客員教授 久保田るり子様
産経新聞編集委員、國學院大學客員教授の久保田るり子様は、「30年間朝鮮半島を担当してきたので、日韓関係と韓国で起こっていることについて、最新の話を含めて話をしたい。今韓国では三つのことが同時に起こっている。一つは世代交代である。伝統的な保守政党『国民の力』で6月11日に代表選挙があり、36歳の若い党首が誕生した。議員も支持者も高齢であるが、そこに36歳で、しかも国会議員でない党首が登場したことは大変な衝撃だった。背景としては、このままでは左派に乗っ取られてしまうという危機感があった。さらに、世論の方でも世代交代が起こっている。4月にソウルとプサンの市長選挙があったが、与党が推した候補者は二人とも落選し、若い人達が野党を支持して野党の候補者が圧勝した。若い人達はこれまでは進歩陣営であったが、この4年間に文在寅のやったことは、結果的に若者の職と夢を奪ってきた。彼らは保守とも少し違い、まとまった理念があるわけではなく、合理主義者である。二つ目は文在寅政権のレームダック化である。文在寅はいま一生懸命日本に来ようとしているが、文在寅に対する風当たりが強くなり、パフォーマンスをしたいと思っている。韓国では、大統領の最後の1年は行政機関が政権の顔を見なくなり、政策を打てなくなる。三つ目は、文在寅政権与党の焦りである。彼らは4期革新政権を続けて韓国を根底から変えると言っていたが、このまま1期で倒れてしまうかもしれない。自分たちは朴槿恵と李明博の二人を刑務所に入れているから、次に文在寅一族や様々な利権を漁ってきた与党の人達が訴えられれば、ただでは済まない。この三つが同時進行しているのが韓国の現状である。日韓関係がこの4年間で過去最低になったと言われるが、二つの判決が問題である。一つは民間企業が徴用工に賠償しろという判決で、もう一つは、慰安婦で日本政府に賠償を求める判決を1月に出し、6月に韓国内にある日本政府の資産のリストを出せと命じた。この二つの判決は、国と国との関係の根本を破壊したわけであるから、過去どの政権がやってきた日韓関係の破壊よりもはるかに強力なものである。これからの日韓関係は、次の政権に委ねられた。両判決とも下級審での判決なので、この先上級審に移っていくと時間がかかる。今の政権はもう手が出せず、反日の芽を埋め込んだという感じである。日韓関係は次の政権も大変苦労するだろう。しかも、今の与党は三分の二近くの議席を占めており、総選挙は新政権が誕生して二年後なので、何か法律を作ろうと思っても国会で通らず、政権交代をしても難しい状況である。また、前の検事総長の尹錫悦は文在寅を批判し、対立して検事総長を自ら辞めたが、この人が保守から大統領選挙に立候補したら勝つ可能性はあるものの、この人は政治経験がなく、100人を超える野党が彼に全権を委任して大統領候補にするかというと難しいだろう。選挙戦は11月に野党が一本化し、与党が9月に一本化する予定で、3月に大統領選挙なので、年末から3月までが見ものであるが、日韓関係は楽観できない。ひょっとしたらもっと酷い反日の大統領が出てきてしまうかもしれない。これが今の日韓関係の現状である。」と、韓国の最新の政治情勢を解説されました。
最後に塾長は、「本日も大変盛り上がった。毎月東京、大阪、金沢の3カ所で勝兵塾を開催してきたことで、保守の考えを持つ人が増えてきているのではないかと思う。本当のことを知れば皆保守になるが、本当のことが教えられていない。この勝兵塾は、本当はどうなのかを知ってもらう場として開催している。今後も開催を続けながら日本の保守化に貢献したい。」挨拶し、会を締め括りました。